フクースナ！１[ゴールデンカムイ夢]

26 低い声 ページ26

二人仲良くベッドに座っている。
Aはキョトンとした顔。尾形はいい加減、貼り付けたような笑みが剥がれかかっている。
顔の筋肉が僅かにひくひくと痙攣する。

やはり、やはりだ。最初に思ったとおり彼にとって、こういう人間は苦手な部類に入るようだ。
今までさぞ愛されて何不自由無く順風満帆な人生を歩んできたのだろう。
それこそ、少しくらい空気が読めなくても問題ないほどに。


「金塊の話をしただろ」
「ん？ああー、金塊」
「いろんな奴が狙っているが、俺はそれを手に入れたい」
「へー。あ。アイヌのでしょ？」


尾形のじゃないよ、とまたもキョトン顔だ。
多分、いや絶対尾形の言いたいことは伝わっていない。金塊争奪戦で皆を出し抜きたいから協力してほしい。
それを伝えたところで彼女は首を縦に振るか？
従わせるためのもっともらしい口実も今は何も浮かばない。

ふー、と息をはいてから今度はAの膝に手を置く。


「…金塊の話は今はいい。それより」


キョトン顔の唇が半開きになった。
自身の膝に置かれた手の熱がすごい。Aは尾形の顔を覗き込む。するりと手が膝を撫でた。


「言っただろ。仲良くしたいんだ…Aと」


作戦変更。
耳元に唇を近付けて囁くように名を呼んだ。女を落とす為の、少し掠れた甘い低音。

尾形百之助という男は誰かを本気で愛した事がなかった。
彼の生い立ちからそれは仕方ないことなのかもしれない。しかしだからと言って女性経験がないわけではない。
自らの声音が女の腹に響くことをよく分かっていた。
少し期待を持たせるような言葉を囁けば、すぐに好意を向けられる。
射抜くように見つめれば並みの女なら頬を染めて目を逸らす。
冷めた心を秘めてはいても、男のサガ。溜まるものは溜まる。女の転がせ方をそれなりに分かっている。

心の繋がりを求めたことはない。そしてこれからも…

この娘を利用するにはこれが一番手っ取り早いんだ。

Aが身につけている外国製の服の裾から太腿に向けて手を滑らせた。

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