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九歩 ページ10

no side


中島「ひ、人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」

太宰「座りたまえよ敦君。
虎はあんな処からは来ない」

中島「ど どうして判るんです!」



中島は叫ぶ。



貴女『そもそも変なのよ。中島君』


木箱の上でAは目を閉じる。


太宰「経営が傾いたからって
養護施設が児童を追放するかい?
大昔の農村じゃないんだ」

貴女『でも、経営が傾いたんなら
一人二人追放したところでどうにもならないわ。
半分くらい減らして他所の施設に移すのが筋よ』


中島「二人共…何を、云って──────」



太宰の方を向こうとした中島。

だが視線は天窓へと向けられる。




太宰「君が街に来たのが2週間前」



窓の向こうには青い月が光っている。



太宰「虎が街に現れたのも2週間前」

そして入れ替わるようにAが続ける。



貴女『中島君が鶴見川べりにいたのが4日前』


何かが中島の中で疼く。


貴女『同じ場所で虎が目撃されたのも4日前』




中島の口から声が漏れる。



太宰「国木田君が云っていただろう。
『武装探偵社』は異能の力を持つ輩の寄り合いだと」

貴女『巷間には知られていないけれど
この世には異能の者が少なからずいるわ』



中島の心臓が早鐘を打つ。



太宰「その力で成功する者もいれば────
力を制御できず身を滅ぼす者もいる」



中島の瞳が妖しく光る。



貴女『大方 施設の人は虎の正体を知っていたけど
中島君には教えなかったのだろうね』

太宰「君だけが解っていなかったのだよ」



もはや人の姿をとどめていない中島に

太宰とAは、なおも声をかけ続ける。



太宰「君も異能の者だ。
現身に飢獣を降ろす月下の能力者────」



そこまで云ったところで

中島────白虎が太宰に飛びかかる。



予測していた太宰は横に避けるが

粉塵の中から虎が再び飛びかかる。



虎の前足が木箱を叩き砕いた。



太宰「こりゃ凄い力だ。
人の首くらい簡単に圧し折れる」

貴女『これだけ自我が無ければ大被害ね』



避けるためしゃがみながら話す太宰と

飛び散った木箱の残骸をつまむA。



貴女『あら、目が合っちゃった』

太宰「それは大変だ」



うふふ、と笑うAと大袈裟に驚く太宰。

虎が咆哮を上げAに飛びかかる。



貴女『攻撃は単調……中島君の性格かしら?』

少し身をよじって虎の突進かわす。



その勢いで虎は再び太宰に狙いを定めた。

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作者名:沙羅 | 作成日時:2019年2月15日 22時

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