Moment by Moment

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森の中で拾ってきたであろう枝を携えた畑野さんが、よいしょという可愛らしい掛け声とともにやってくる。


「こういうのでいいですか？」


白浜さんに伺いを立てる畑野さんの表情は生き生きとしていて、とても嬉しそうである。
なんだか2人は雰囲気が似ているなあ。
微笑ましく思いながらやり取りを見ていると、後方から気だるげな声が飛んできた。


「ねえ。それで誰か来ます？」


少し離れたところにいた萱島さんがこちらに近付いてきた。


「わかりません、けど何もしないよりは。」


茶化すような言葉にも真摯に受け答えをする白浜さん。
立ち上がった彼が萱島さんに向って、お名前は？と尋ねた。


「あっ、匿名希望。24歳です。」


萱島さんは相変わらずだ。
おどけた態度で2人を困らせている。
畑野さんが口を尖らせて何か言っているのを視界の端にとらえながら、わたしは一旦車内に戻った。


「ん？あれ.....」


匿名希望？
先程の萱島さんの発言が少し引っかかった。
わたしにはすぐ名乗ったのに。
なぜ今更情報を出し渋るのだろう。
まあ人には色々と事情があるのだから、気にしなくてもいいか。

考えても仕方ないと割り切ったわたしは、空いていた電車の座席に腰かけた。
今朝用意してきたウォータボトルをカバンから引き抜く。
美容の為にと持ち歩いている大きめのボトルだが、重くて邪魔だなと思っていたのに、今はやけに心強さを感じる。
常温の水をひと口飲めば、こんなにも美味しいものかと感動してしまった。


「.....喉乾いたあ。」


ぽつり。
こぼれた言葉の主を見る。
ネイリストの玲奈ちゃんが、横目でこちらを見ていた。


「.........飲みます？口、つけちゃってるけど。」


恨めしげにわたしを見る彼女にウォータボトルを差し出す。
ぽちゃ、と、まだ大量に残っている水がボトルの中で音を立てた。


「.....いい。」


ぶっきらぼうに答えた彼女はイヤホンを装着し、車内の奥側へ歩いていった。

うーん。
思春期、ではないはず。
自分の苗字も隠していたけれど。
まあ難しいお年頃なのかな。

思案しながらさらりと揺れる玲奈ちゃんの黒髪を眺めていると、入れ替わるように1人の青年がこちらへ歩いてきた。



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