短編-35 (ページ6)

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気づかないで、恋心ページ6

俺の好きな人。
いつも何処かぴょこんと髪の束が立っていて真っ暗な瞳をキラキラさせている。よく通るその声はどこに居たって見つけられる。
優しくて、芯があって、明るくて、ときどき気を遣いすぎちゃうのが玉に瑕。面倒見がよくて周りのこと良く見てる。のに、肝心なところでひどく鈍い。

それが俺の好きな人。今、俺の左肩を枕にして呑気にぐうぐう寝ているこの人。

「大ちゃん、大ちゃん。着いたよ。起きて。」
「んあ。…もぅ、ついたの？」

目的地に着いたことを知らせるようにロケバスが静かに止まる。俺に揺すり起こされた大ちゃんは、まだ眠たげな目を擦りながら、窓の外をのぞいた。

「わぁ、すげえ！雪じゃん！」
うっすらと広がる雪景色に子供のようにはしゃぐ大ちゃんに「そだね。」と素っ気なく返す。

「？、いのちゃんテンション低くない？どした？」
反応がいつもと違う事に気づいた大ちゃんが、すぐさま声をかける。

微かな変化にも気づけるそういう所、俺にだけだったらと期待しちゃう自分がいる。

そんな訳ないのに。

「大ちゃんが、俺に体重かけてたから肩が痛くって…」
「えっ！うそ、ごめん。」

左肩をさすりながら大袈裟に痛がる仕草をしてみせると、慌てた様子でこちらを窺うその姿はまるで小動物のよう。そんな大ちゃんがおかしくて、ついつい調子に乗る。

「痛すぎて動けない。チューしてくれないと治んない。」

「………は？」

やべ、調子に乗りすぎた。
さっきまで怒られてしゅんとした子犬のような表情だった大ちゃんの顔は、少し怪訝そうに眉を曇らせた。

やめてよ、そんな顔。

「嘘。ジョーダン。引っかかったね、アホ大貴。」
「っ！！あほって何だよ！本気で俺っ──」
「ほら〜、そこのおふたりさん、早くバス降りてよね。」

大ちゃんが俺に食ってかかろうとしたところで、先に降りていた光から止めが入った。
大ちゃんはまだ何か言いたそうにしていたが俺が降りる準備を始めると、そそくさと先に降りていってしまった。頬をほんのり赤らめたまま。