・最終日の前日 ページ1
*
「裕太ー。」
「あっ、Aちゃん。来てくれたんだー、ありがとう。」
「ううん。すぐ行かなきゃなんだけど、ちょっとだけでもと思って来ちゃった。」
裕太の個展には毎回、初日と最終日だけは出来る限り顔を出すようにしている。
「忙しいのに毎回、ありがとうね。」
「うん、大丈夫だよ。」
裕太と話していると、後ろから綺麗な女の人が顔を覗かせた。
「こんにちはー。」
「あっ、こんにちは。」
その人は私に挨拶をしてくれた後、すぐに裕太の腕に触れて。
「ねっ、裕太くん!この子でしょう?裕太くんの彼女のAちゃんって。」
「ふふふ、そう。よくわかりましたね。」
「やっぱりー!裕太くんが言ってた通りの可愛らしい子で、すぐわかっちゃったぁ。」
隣で裕太の腕をペチペチ叩きながら、楽しそうに笑う彼女。
ふたりはとても親しそうにしていて、裕太の彼女は私なのに、まるでこの人が恋人のように見えてきて、疎外感に包まれる。
「裕太、この方は……?」
「あっ、紹介してなかったね。この人は一階のお店のオーナーさん、柚子さんだよ。」
裕太の言葉を聞いた柚子さんという人は、優しい笑顔を私に向ける。
「初めまして、柚子です。Aちゃんのことは裕太くんからよく聞いてたから、会えてすっごく嬉しくなっちゃって!よろしくね。」
「そうだったんですね……。初めまして、Aです。裕太がお世話になってます。」
そう挨拶すると柚子さんは、私の方がいつも裕太くんにはお世話になっちゃってるのと、笑いながら口にした。
お世話になってるって、なに?
どんなことを裕太がしてくれてるの?
裕太はなによりも陶芸が好きで、昔から交友関係も狭くて女友だちは恵茉しかいないようなタイプなのに、こんな綺麗で親しい人がいるなんて、全然知らなかった。
人見知りの裕太がここまで親しくなったってことは、アーティスト同士で話も合うんだろうし、生き方や考え方も理解し合えるような、本当に気が合う人と出会ったからなのかもしれない。
そう思ったら胸がぎゅっと痛んだ。
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作者名:ミツ葉(にかみつば) | 作成日時:2022年5月20日 5時