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「A、」
『あ…卓也さん、と…』
病室に戻ると、Aは平気そうに起き上がっていた。外を見ていた目をこちらに向けて、少し申し訳なさそうに俺を見る。
「西川遥輝、」
『西川、さん…えと…初めまして、ですよね』
「…えっと、」
「初めましてやないんやけど、な」
『あ、っと…どこかでお会いして…?』
「あのね、A、落ち着いて聞いてくれる?」
『は、はい、?』
ベッドの横の椅子に座った卓さん、俺はその3歩離れた後ろから近づくことはできなかった。Aより少し目線の低くなった卓さんが、ゆっくりと話してくれた。
「Aは、記憶喪失みたいなんだ」
「…」
『え、?』
不安そうに瞳が揺れた。動揺したように目が泳いでいる。ぎゅっと握られた手に込めた力は、きっと今最大級の力。
「…忘れているのは、遥輝のこと、」
「っ」
『えっと…、』
俺に向けたその目が真っ直ぐで、すぐにでも逸らしたいけどそれをさせてはくれなくて。Aの目を捉えたまま動けなくなった。
「Aは、遥輝の奥さん」
『え、…』
遥輝は、Aの旦那、と卓さんの言葉に俺は左手の薬指にはめている指輪をそっとなぞった。Aは自分のはめていた指輪を凝視する。
『…あの…』
「無理に、思い出さなくていいよ」
「…遥輝、」
「俺は、覚えてるから」
全部、Aとのこの数ヶ月間は、俺の頭と心に残っているから。
「Aの体調を見ながら、ゆっくり話していきたいと思うんだ」
『…』
ねえ、そうでしょ?
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いちか(プロフ) - 菜々さん» ありがとうございます★楽しんで頂けて嬉しいです◯Twitterも是非よろしくお願いします★休みながら頑張りますね! (2019年8月25日 0時) (レス) id: 659890526f (このIDを非表示/違反報告)
いちか(プロフ) - 花音さん» ありがとうございます★とってもとっても嬉しいお言葉ありがとうございます!!もう少しだけこの作品も続きますので引き続きよろしくお願いします★ (2019年8月25日 0時) (レス) id: 659890526f (このIDを非表示/違反報告)
菜々 - 毎回楽しく読んでました。とっても素敵なお話しでした。次のお話しを読む事ができるのを楽しみにしてます。Twitterもフォローさせて頂きます。ちょっとはゆっくり休んでくださいね (2019年8月24日 20時) (レス) id: f90c817e3e (このIDを非表示/違反報告)
花音(プロフ) - いちかさん、本編終了おめでとうございます(^^)最後まで素敵なお話でした。本当にいちかさんのお話大好きです!番外編やまた次のお話、とっても楽しみにしています。また素敵なお話を読めるなんて嬉しいです☆これからも頑張ってください。応援しています。 (2019年8月24日 8時) (レス) id: a0401679ea (このIDを非表示/違反報告)
いちか(プロフ) - はるちゅんさん» ありがとうございます◯更新頑張ります!またよろしくお願いします★ (2019年7月30日 20時) (レス) id: d72f7e0d49 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いちか | 作成日時:2019年7月15日 13時