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…
旗本の宮舘様は、穏やかで男らしくて。私と同い年だけど大人びていて、その背負っている覚悟というものが伝わってくる。
初めて店に来たときは、近寄りがたい人だと思ったけど。
「これは旨いな、うちにも持って帰ろうかな。」
「ありがとうございます。おいくつ包ませていただきましょうか?」
「…。」
「どうかしましたか?」
「名前、」
「え?」
「名前、教えてもらえるかな。」
「…A、です。」
緊張しながら答えたら、宮舘様は目を細めて。
「いい名だね。」
それから。
ちょくちょく店に顔を出してくれるようになって。
ある、初冬の日だった。
いつものようにお団子とお茶を召し上がった宮舘様は、
「仕事は何時までなんだ?」
「あと、半時くらいで終わります。」
「そうか…。」
少し考え事をしたあと、その人は照れくさそうに。私を連れていきたいところがある、と言った。
「きれーい。こんなきれいな簪初めて見ました。」
「…雪の、形をしてるらしい。」
「雪。わぁ、私冬生まれなんです。そっか、雪が簪になるとこんなにきれいなんですね。」
「これ、いただくよ。」
そっと私の髪に簪をさすと、宮舘様はお店の人に声をかけた。
「宮舘様?こんな高価なもの、」
「…もらってくれないかな?」
Aにつけてほしいんだ。
そう言って。
帰り道の、人通りがない路地で。
突然腕を引かれて私は宮舘様の腕の中にいた。
「あ、の。待ってくださいっ、」
「…ごめん、」
何がなんだかわけがわからず取り乱す私に、彼はゆっくりと体を離して。
「人に何かを贈ったのは初めてなんだ。こんなに誰かに会いたいと思ったのも。」
「…、」
「また、顔を見に行ってもいいか?ちゃんと団子も頼むから。」
「…、はい。」
店の人にからかわれるくらい、彼は私に会いに来てくれた。
そして。
混沌とする時代の中で。
いつしか私は、望んではいけない幸せを夢見るように、なっていった。
この人の、お嫁さんになりたいと。
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作者名:みち | 作成日時:2020年7月12日 9時