記憶(R.Miyadate) (ページ2)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:28,585 hit

2 ページ2

…

「明日さ、」

「うん。」

金曜日の夜。
お風呂上がりの涼太は、缶ビールを開けて口をつける前に思い出したようにつぶやいた。

「友達と海に行こうって話になったから。行ってくるね。」

「そっか…もう、夏なんだね。」

今年は梅雨が長いからそんなこと気づかずにいた。

小さい頃からサーフィンを嗜んできた涼太は、海が好きだ。
私は、行ったことがないんだけど。彼には彼の時間も楽しんでほしいから、その時はどうぞ、って送り出してる。

「朝早めに出るから、起こしちゃったらごめんね。」

「大丈夫。二度寝得意だから。」

後ろからぎゅっと抱きつくと、涼太が小さく笑う声が聞こえる。
彼と暮らし始めて2年。
幸せがこういうものなんだって。実感する。

「お風呂上がりでまだちょっと暑いけど、」

「うん？」

「いちゃいちゃ、しますか。」

え、って言いかけた言葉は涼太の唇に飲み込まれて。ビールの味が、広がった。

「…、Aもう寝ちゃうの？」

「…ん、涼太のせい。」

「ふふ、ちょっと手加減した方がよかった？」

「もう。」

仕方ないなぁ、なんて言いながら。幸せそうに私を見つめて、ベッドの下に落ちたTシャツを拾って着せてくれる。

ねぇ。
こんなに尽くされていいのかな。なんて思うよ。

「はい、これでいいかな。女の子は冷やしちゃだめだよ？」

「ん…。」

タオルケットを私にかけて。涼太はまだ暑いからって隣に寝転ぶ。
そっと目を閉じると、夢と現実の狭間で彼の声を聞いた。

“愛してるよ”

そして。
7月の朝は明るくなるのが早い。

まだ何時なのか分からないけど、カーテンの隙間から差し込む日差しに目を覚ました私は、息を飲んだ。

また。

あの手。

かたく。
かたく結ばれた涼太と私の手。

次の瞬間。

私の心臓は大きな音をたて。

暗いトンネルの中に、誘われた。

時は文久。

私は、茶屋の看板娘と呼ばれ。
日々忙しく過ごしていた。

そこに。
現れた、凛々しい人。

「いらっしゃい、宮舘様。」

「今日も元気だね。いつものもらおうかな。」

「はい！」

あぁ。
そうだ。

私は確かに。

この人を愛していた。