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(R.side)
“私のこと、時々思い出してくださいね”
普段そんなことを言ったりしないのに。
なんでだろう、あの一言が引っ掛かって。
「なに考え込んでんだよ。」
「いや、気になるんだ。」
彼女は人が苦しむことが嫌いだ。自分を犠牲にしても人が幸せになるであろう道を選ぶ。そういう人だ。
だから、吉原に来た。
と、言うことは。
「…っ、俺は余計なことを言ったな。」
「涼太、どうした?」
「悪い、照。今日は一人で帰ってくれ。」
「は?涼太?」
俺は慌てて今来た道を引き返した。
「夕霧は、どこにいるっ、」
「あぁ、宮舘様。先程の部屋からまだ出てきませんよ。身支度でもしているのではないかと思っていたところで、」
「今夜は俺が借りきる。いいな?」
「…、はいっ、」
どうか。
どうか間に合ってくれ。
襖を開けると、薬の包みを手にしている彼女がいた。
「Aっ!」
力の限り、抱き締めた。
重みのある薬の包みが落ちる音がして。
彼女はまだ飲んでいなかったと分かり安堵した。
こんな華奢な体にいくつもの重い荷物を背負わせてしまったなんて。
俺はなんて愚かだったのだろう。
「もう二度と俺の前から消えたりしないでくれ。」
「涼太さん…、っ、」
髪に触れて口づけると、彼女は堰を切ったように泣き出した。
「すまない。自分勝手な男で。」
「…っ、そんな、」
Aのいない人生なんて、なんの意味もない。
俺には彼女を自由にしてやる金を用意できない。かといってかけおちもできない。それなら。
残る道は、ひとつだ。
口づけをして指を首へ滑らせていくと、彼女は小さな肩を震わせた。俺達は、初めてお互いのすべてをさらけ出し、愛し合った。
明け方。身支度を整えた俺達は、東の空を拝んで。
「もし死にきれなかったら、そのときは俺のこと忘れてくれ。」
「嫌です、必ず涼太さんの側にいきます。」
Aの髪に光る、雪の簪。
まるで夏の空に消えていく露のようだ。
この日のために医者から貰って集めておいたという多量の薬。包みを一つずつ開けて、水で流し込む。そして。また、一つ。一つ。
「生まれ変わったら必ず見つけるから。」
「はい…。」
「愛している。」
きっと。
身分の違いで涙を流さなくてもいい時代が来る。
互いの手と手を離れないように、固く結んだ。
夏の、早朝のことだった。
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作者名:みち | 作成日時:2020年7月12日 9時