死にたがり ページ9
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手っ取り早く町の本屋に訪れてみれば、ここが異世界であるという疑念は確証へと変わっていった。
見慣れた文字で書かれた歴史書には《海賊》という文字が何度も出てきて、現在は所謂《大海賊時代》という区分らしい。
いくつか主要な海賊の名前を脳に叩き入れ、ついでにと天竜人について調べれば、先程の海兵に教えられたのとはまた違う、随分と美化された内容しか載っていなかった。
あの海兵が天竜人を嫌っているだけで、世間一般の認識はこの本の通り《創始者の末裔》で崇拝するに相応しい存在なのかもしれない。
けれど、直ぐにそれは間違いであることを知った。
『…なるほど、クズだ』
大通りの真ん中、血だらけの人間の背に座り、人を馬のように扱う男。
ジャラジャラと音のする数本の鎖を持って、恐れ戦く住人たちを見下ろすのは宇宙服に似た装いをした天竜人だ。
服の上からでもわかる飢えを知らなさそうなでっぷりと太った体に特徴的な髪型が、彼の周囲にいる数人のドレイも合わせて人々に嫌悪感を抱かせる。
私はなるべく天竜人の視界に入らないように暗い路地に隠れ、その隙間から早く天竜人が通り過ぎるのを待った。
「__誰か!助けて!ママが病気で倒れちゃったの!!」
その時、バン、と押し開かれた民家の扉。
中から顔を覗かせた小さな少年は、息せき切った様子で周囲を見回し、すぐに状況を理解して顔を青ざめる。
「…誰だえ、わちしに頭を下げないやつは!頭が高いえ!」
「っひ、ごめんなさ…」
何、あの変な喋り方。
天竜人が無礼だと銃を引き抜き少年に照準を合わせると、少年は怯え震え始めた。
目の前に見える女性が、悔しげに唇を噛み締める。
銃口の、真っ暗な死を象った瞳が、少年を捉えた。
__パァン
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改革 - 面白かったです。イラストも綺麗で感動しました (4月18日 9時) (レス) @page50 id: bf669bb16c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なぎしば | 作成日時:2022年12月26日 21時