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▶追憶:生の果て ページ33



『七海さん』




思い出したくも無い記憶。
全てが狂った渋谷事変の前、七海さんと交わした会話。


私の目には彼を取り囲む、いっぱいの彼岸花が映っていた。
外国の血を引くクォーターで金糸のような輝く金髪を持つ七海さんと、おぞましいはずの血に濡れた真っ赤な色の彼岸花は、皮肉なほど似合っていた。

彫りの深い顔で、七海さんはいつも通り私を憮然とした表情で見下ろす。
でも、私の目をみて言わんとしていることに気付いたのか、一度唇を真一文字に引き結んだ。




「…わかりました」

『…ッ』

「大丈夫ですよ、覚悟は、ずっと前から決まっていますから」




大きな七海さんの手が頭に乗った。
無骨で、でもスラリと長い指が私の髪を梳くように滑って、そういえば初めて彼に頭を撫でてもらったなと場違いなことを考える。


不慣れなその手つきに彼が生きていることを実感して、目頭が熱くなった。
縁起が悪いとグッと堪えて、でもからりと乾いた喉のせいで、声は震えていた。




『生きたいって、言わないんですか』

「…ええ」

『っ…生きたいって、言ってください。


なんで、言ってくれないんですか…?!』




そうしたら、助けられるのに。




「…今ここで、貴重なあなたの術式を使うべきではありません。

それに、呪術師に後悔のない死なんてない」




恨めしいほど、憎らしいほど彼が正しかった。



運命は変えられない、普通の人には。でも、私にはそれが出来る力がある。



彼岸視術__月待の相伝の術式ではないものの、私の術式は本家の母屋にある、厳重に警備された書庫の書物の中に記載されていた。



それは、他でもない月待家初代当主、月待絵鳩が有していた術式だったからだ。



最も件に近しく、気高く、恐ろしい術式。
人の死を視れる術式は、それだけではなかった。



__人の死を予見し、奪い、また与える。



神と呼ぶに相応しい所業を成すその術式は、呪術界に於いてはっきりと驚異となった。



領域展開《無疆曼珠》は人の命を刈り取る。
そして、誰もが欲しがった秘伝の能力__人の死を、延命する能力。


天元様の不老不死とは違う、ただの延命措置に過ぎない。
けれどそれをかけ続けることで術者が死なない限りは半永久的な命を手に入れることができるのだ。

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改革 - 面白かったです。イラストも綺麗で感動しました (4月18日 9時) (レス) @page50 id: bf669bb16c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なぎしば | 作成日時:2022年12月26日 21時

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