間違った優しさ ページ9
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『…はぁッ、鼻に水、入った…』
ツンと来る痛みに顔を顰める夜空。
間接キスは問題じゃねぇのか、と悪態をつきそうになるが、若干涙目になってる彼女を見て口を閉じた。
鼻を抑え「痛い」と悶絶する彼女を他所に、左馬刻は今自分がしでかしたことは相当大胆なことだったのではないかと、今更ながら羞恥を覚える。
鼻に手をやる女子高生、額を抑え項垂れる男子高校生。
何があった、と問いたくなる雰囲気だが、周囲に人はいない。
それにいたとしても左馬刻の容姿を見れば話しかける気も失せるだろう。
「あー、テメエ、
孤児なのか?」
気不味い雰囲気に思いついた話題を適当に振る。
夜空は恨めしそうな目で一度左馬刻を見上げた後、視線を前に向けて答えた。
『そう、戦争孤児だから、孤児院に預けられてる』
左馬刻は、そういったとき彼女の瞳に悲しげな感情が宿ったのを見逃さなかった。
こんな奴でも両親のことは考えちまうもんなんだな、と若干失礼なことを考える。
だが既に夜空からは先程の悲しげな表情は伺えなくなっており、気の所為だったか、と思うが、まあどうでもいい、と思考を放棄した。
『…シロ君は?』
「…あ?」
突然放たれた言葉に左馬刻は何も考えずに声を出した。
今、此奴はなんと言った?
恐らく質問の意味は主語しかないが、《君は両親いるの?》という意味だろう。
取り敢えず百歩譲って両親の話は良い。
だが、夜空は今左馬刻のことをなんと呼んだ?
「…テメエ、そりゃ俺様のことか?」
『?
そう、シロ君の両親の話』
「違ーよ、その“シロ君”ってのは俺様のことを言ってんのかって聞いてんだよ」
『そうだけど…?』
けろっと答えて見せる夜空の邪気のない顔に、左馬刻は天を仰いだ。
何が悲しくて、シロ君、なんて可愛い渾名を付けられねばならない。
左馬刻の容姿はなかなかに威圧感があると思うが、夜空はそれを全く気にしていない。
怖いもの無しなのか、此奴は。
『私の事は“ソラ”で良い』
「…ソラって名前なのか?」
『違う』
「…なんで本名言わねーんだよ」
そう言うと黙り込む夜空。
左馬刻は彼女の表情が見えず、覗き込むように彼女の顔を見た。
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Cynic** - 豪炎寺修也推しさん» コメントありがとうございます。この作品も見にきてくださったんですね、とても嬉しいです。ご期待に添えられる様に頑張ります、応援ありがとうございます! (2020年5月23日 21時) (レス) id: b937c10b42 (このIDを非表示/違反報告)
豪炎寺修也推し - こんばんは、毎度毎度すみません…。もう文字のフォントが素敵ですね!私の最推しの左馬刻の物語なので、楽しみに読ませていただきます。更新頑張って下さい! (2020年5月23日 20時) (レス) id: 619493ea8b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Cynic** | 作成日時:2020年5月23日 16時