夏の暑さ ページ27
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____夜空が深い睡眠に落ちるのは珍しい。
激しい運動をした後か、強い緊張感から解放された後かだけ。
今回は前者であった。
深い眠りから覚めるとき、夜空は決まって水面から顔を出すときのような息苦しさを覚える。
まだ寝ていたい、という睡眠欲が働くせいだろう。
夜空は重たい瞼を無理やりこじ開け、周囲を見回す。
少し、肌寒い。
不思議に思って体を見れば自分は裸で。
慌てて周囲を見回せば、白いTシャツに下着という、少し頓珍漢な格好をした左馬刻が荷物をまとめていた。
夜空は少し前まで自分達がしていたことを思い出し、顔に熱を覚える。
「お、起きたか」
『…うん。
今何時?』
「六時前だな。
俺様は合歓に夕飯作ってやんねぇとなんねぇから、そろそろ帰るわ」
『私も帰る』
少し重い腰を動かして、床に散らばっていた服に着替える。
狭い部屋には濃密な性の香りがまだ漂っており、夜空は適当に服を身に付けると窓を開けに行った。
夏の暑さを打ち消すような風が吹き込んで来て、夜空は深く息を吸う。
そして投げてあった鞄を掴み、玄関に向かう左馬刻に駆け寄った。
『シロ君』
「あ?」
『初めてだった?』
「ぶッ」
よっぽど暑いのか、微かに赤みを帯びている彼の耳。
夜空が悪戯に左馬刻の顔を覗き込むと、左馬刻は飲んでいたペットボトルの水を吹き出した。
「…お前、それ普通聞くか?」
『?
何が?』
「…いや、何でもねぇ。
初めてだよ、悪りぃか」
『悪くない。
私も初めて』
「だろうな」と言ってきた左馬刻を見上げれば、まだ少し顔は赤くて。
不思議そうに見上げていれば、左馬刻は「見んなよ」と言って顔を押し下げて来た。
開いた玄関から蝉の声が空き家の中に入り込んで来て、夜空は緑に囲まれた小屋を一度振り返る。
____まだ、大丈夫。
まだ、片方がいなくなっても壊れたりはしない。
入道雲の広がる空を見上げ、太陽の眩しさに宝石の瞳が輝いた。
雲の端が解けかかっていて、空と白が混ざり合っている。
『____ソラとシロは、互いに溶け合う』
「あ?
なんか言ったか?」
『…ううん、何でもないよ』
風に踊らされた木々が夜空の言葉をかき消す。
まだ、私達は名前を知らない。
まだ、ただの《知り合い》でいれる。
だからきっと、この焦燥感は気のせいなんだ。
____二人の耳に光る色は、夏の風景に輝き、そして溶け込んだ。
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September:子兎の愛らしさ→←初めてのその感覚は +α
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Cynic** - 豪炎寺修也推しさん» コメントありがとうございます。この作品も見にきてくださったんですね、とても嬉しいです。ご期待に添えられる様に頑張ります、応援ありがとうございます! (2020年5月23日 21時) (レス) id: b937c10b42 (このIDを非表示/違反報告)
豪炎寺修也推し - こんばんは、毎度毎度すみません…。もう文字のフォントが素敵ですね!私の最推しの左馬刻の物語なので、楽しみに読ませていただきます。更新頑張って下さい! (2020年5月23日 20時) (レス) id: 619493ea8b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Cynic** | 作成日時:2020年5月23日 16時