July:天然の爆発 ページ22
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七月下旬。
世間は夏休みに入り、今まで人気がなかった公園にも人の姿が見える様になってきた。
夜空も左馬刻も、制服を着る気は無くなったようで、最近はTシャツなどのラフな服で逢う様になっていた。
この日も二人はいつもの公園のベンチに座り、特に話すこともなく同じ時間を過ごす。
それだけでもひどく心地良かったが、夜空がおもむろに口を開いた。
『…シロ君って誕生日いつ?』
「唐突な話だな…」
呆れたように息を吐きつつ、然し「十一月十一日だ」と答える。
『へえ、覚えやすい。
…登り棒の日だね』
「そこは普通、違う言葉が出てくるもんなんじゃねぇか…」
分からなくもないが、矢張り感性がずれている。
夜空と話すのには労力がそれなりに伴うが、他の人と話すよりずっと気楽でいれた。
左馬刻は、夜空といれる時はとても落ち着ける。
「テメエはいつなんだよ?」
『私?
…四月八日。
早いでしょ』
「もうだいぶ過ぎてんな…
誰かにプレゼントとか貰ったのか?」
『園長先生に貰ったよ。
シロ君は十一月十一日のことなんて言うの?』
「だからなんでテメエは話の進め方が独特なんだよ…」
突如蘇る過去の疑問を躊躇いなく聞いてくる夜空。
目を細めて睨めば、夜空は不思議そうな顔で首を傾げた。
「あれだ、プリッシの日とか普通のやつはいうんだよ」
『へえ、そうなんだ』
頷く夜空に左馬刻は頭を抱えた。
駄目だ、今日のこいつはいつもの二倍増しで天然が爆発してる。
左馬刻は「あー」と言って髪を掻き毟り、腰を持ち上げた。
「誕プレ買いに行くか」
『え、良いよ、別に』
「十六で貰ったプレゼント一個とか悲し過ぎんだろ。
たけぇのは買えねぇけどよ、一応金は持ってるし」
「行くぞ」と言って歩き出す左馬刻に、夜空は慌ててついて行く。
夜空は家族でもなんでもない人からプレゼントを貰うのは初めてだった。
だから、それが嬉しくて思わず頰が緩んでしまう。
『じゃあ、シロ君の誕生日には私がプレゼントあげるね』
「嗚呼、楽しみにしてるわ」
『ふふ。
…蝉が鳴き始める季節ですね』
「…おう」
『蝉嫌いなんだ』
「あんでだよ?」
『小さい頃、野良猫が地面に落ちてる蝉を食べてるのを見ちゃって、トラウマになった』
「…そりゃトラウマにもなるわな」
左馬刻の半歩後ろを歩く。
そこが夜空の定位置だった。
話しかけるたびに此方を振り向いてくれるのが嬉しくて、この時間がずっと続くことを期待していた。
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Cynic** - 豪炎寺修也推しさん» コメントありがとうございます。この作品も見にきてくださったんですね、とても嬉しいです。ご期待に添えられる様に頑張ります、応援ありがとうございます! (2020年5月23日 21時) (レス) id: b937c10b42 (このIDを非表示/違反報告)
豪炎寺修也推し - こんばんは、毎度毎度すみません…。もう文字のフォントが素敵ですね!私の最推しの左馬刻の物語なので、楽しみに読ませていただきます。更新頑張って下さい! (2020年5月23日 20時) (レス) id: 619493ea8b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Cynic** | 作成日時:2020年5月23日 16時