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June:上機嫌の理由は ページ14




左馬刻と夜空が出会って一ヶ月が経ち、二人は週に二、三度のペースで会うようになっていた。
六月上旬、初夏の風が左馬刻の撫でつけられた髪を揺らす。
血のついた拳をいつもの公園の水道で洗い、適当な場所に腰掛けた。

チラと入口の方に視線を向ければ、ちょうど赤髪の男性が入ってくるところだった。
丸まった背に、新しい鞄を抱いてとぼとぼと歩き、ため息と共にベンチに座る姿は憐れで左馬刻はなんとなく眼を逸らす。
それから程なくして、いつもと違い半袖のシャツを着た夜空が声を掛けてきた。








『シロ君、おはよう』

「…随分上機嫌じゃねぇか」

『ふふ、先刻(さっき)まで一仕事してたんだよ』









一ヶ月経って変わった点は幾つかある。

まず一つは夜空の表情が前より変わる様になったこと。
と言っても、殆どは無表情だが。
二つ目は、左馬刻が無表情の状態の夜空の感情をある程度読める様になってきたことだ。








『ねぇ、見て』

「?」









半袖のワイシャツの裾を引っ張られ、左馬刻は夜空の手元を覗き込む。
そして彼女の手のひらに乗せられたものを見て、眼を見開いた。









「…お前、それ返して来いよ」

『ちゃんと返すよ。
でも、あのお兄さんがどんな人か気にならない?』









夜空が持って居たのは、公園のベンチに座っている男性の財布とケータイ。
彼はこの公園で一人だけ異様な程に負のオーラを撒き散らして居た。
恐らく何故彼があそこまで落ち込んでいるのかが気になるのだろう。
いそいそと財布を開き出す夜空を呆れた目で見つめ、手慣れた様子で物色していく彼女に身を寄せた。









『二十三歳。
新社会人だって。
…ねえ、シロ君この漢字読める?』

「あ?
読めるに決まってんだろ…」









免許証の様なものを取り出し、それに書かれた名前を指差す夜空。
左馬刻はそれを覗き込み、余裕、と鼻で笑い__表情を戻した。









『…読めないの?』

「悪りぃかよ」

『ううん』

「つか、テメエも読めねぇだろ」

『読めるよ?
観音坂(カンノンザカ)独歩(ドッポ)









眉間に皺を寄せた左馬刻に、夜空は無意識に煽りを入れる。
それに舌打ちを漏らした左馬刻は顔を背け拗ね始めた。

だが天然の塊である夜空がそれに気付くはずもなく、次々と観音坂という男性の財布を漁っていく。
軈て飽きたのか、次は携帯電話に手を伸ばし始めた。


ちょっと変わっている→←お節介な人



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Cynic** - 豪炎寺修也推しさん» コメントありがとうございます。この作品も見にきてくださったんですね、とても嬉しいです。ご期待に添えられる様に頑張ります、応援ありがとうございます! (2020年5月23日 21時) (レス) id: b937c10b42 (このIDを非表示/違反報告)
豪炎寺修也推し - こんばんは、毎度毎度すみません…。もう文字のフォントが素敵ですね!私の最推しの左馬刻の物語なので、楽しみに読ませていただきます。更新頑張って下さい! (2020年5月23日 20時) (レス) id: 619493ea8b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Cynic** | 作成日時:2020年5月23日 16時

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