シャングリラエッジ【ars J.M】

42.大事件。 ページ42

「こっちです」
「え？そっち？」

今歩いて来た方向を向いた私に、潤さんが「戻んの？」と問う。

「はい、ちょっとだけ戻ります」
「ふーん」

打ち上げ時間が迫って来てるせいか、本当に人が増えた。
ちょっと満員電車レベル。
しかもその流れに逆らってる感じになるから、余計に歩き辛い。避けてても前から来た人にぶつかる。
でも逆流してるのは自分だから「すみません、ごめんなさい」ってペコペコしながら、前へ進む。


「大丈夫か？」
「あ、はい、割と？」
「ハハ、割とってなんだよ。もう俺が前を歩くわ。とりあえず真っ直ぐ？」
「あ...じゃあ、とりあえず...すみません」

私の前に潤さんが出て来て歩き出した。
潤さんが上手く人を避けてくれてるのか、さっきよりずっと歩きやすい。
あれかな、あまりにも美形だから皆が思わず道を開けちゃうのかな、モーゼ的な。

「おい、ちゃんとついて来てんの？」

振り返った潤さんが「あ、居るわ」って私を見て呟いた。

「不安になるな、これは」
「大丈夫ですよ！私は潤さんを見失いません！」
「いや、そーゆー問題じゃなくて」


ちょっと立ち止まってそんな話をしてる時、背後からぶつかられた。
ヤバイ、こける！と思う瞬間って、どうしてあんなスローモーションになるんだろう。
スローになった所で何の回避も出来ないんだけど。
下駄のせいで踏ん張る事すら出来ない私の体は、ビックリする程簡単に前へ倒れた。


「ほらな、言ってる側から」
「......すみません！」

だけど、私はこけなかった。
言ってしまえば、こけそうになったのを潤さんが助けてくれたという状況。
私はポスンと潤さんの胸に受け止められて、事無きを得た。
抱き締められるとか、ハグとか、そーゆーんじゃないのは分かってる！
でも実際、私の体は潤さんの胸の中。
...これはこけるよりも私的には大事件だ...。

こんなベタに少女漫画みたいな事が実際に起きるなんて思ってなかったし、まぁ世界のどこかでは起きてるのかもしれないけど私の身に起きるとは思ってなかったし...。


「それは死守すんのな」
「...え？」

見上げると潤さんの視線の先は、私がギュっと握り締めたりんご飴。
ククっと笑った潤さんが「こんな所で立ち止まってたら邪魔になる」って、クルっと背を向けた。

何だか少し寂しくて下を向くと、後ろ手にキュっと掴まれる私の手首。
そのまま潤さんは歩き出した。
振り向きもせずに。

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