シャングリラエッジ【ars J.M】

2.名ばかり。 ページ2

ちゃんとバイト代はくれるという。
そして管理をするのは8月だけで良いという。
となると、9月は貰ったバイト代で遊べる。
「ハロウィンのミッキーマウスに会いに行くの！」と私は心に決めて、前向きにビルへと向かった。


父親の持ちビルは5階建てで、4階と5階フロアにあるうちの会社以外に別の会社にも事務所を貸している。
初出勤の日、もう休みに入ってた管理人の田口さんがわざわざ来てくれて色々と教えてくれた。
管理人がやる仕事とか、ビルに入ってる会社の事とか。

「あ、この春に新しく入って来た会社があるんだけどね」
「新しく？」
「東京から来た若者が3人で立ち上げた会社らしいんだよ」
「東京の若者...」

ITか？IT社長なのか？
田口さんが作ってくれた『朝霧ビル・早わかりマップ』を見る。

「どの会社ですか？」
「三階にある、この会社」
「...ミオって読むんでしょうか？」
「そうそう、ミオって読むらしい」

マップ上の三階フロアにある『澪』という会社名を指さして、田口さんは「ここの社長さんたち、凄いんだよ」と笑う。

「何が凄いんですか？」
「まぁ、一目見たらすぐに分かるよ」

空調のきいた涼しい管理人室で、田口さんは何だか悪戯っ子のような顔をした。
一目見たら分かる凄さ...どんな凄さなのか。


「じゃあ、今日から管理よろしくね。Aちゃん」
「はい！」
「悪いね、夏休なのに...」
「いえいえ、娘さんとごゆっくり過ごして下さい」
「いやー、アイツは留学したら暫く会えなくなる友達と遊ぶだけだと思うんだけどね」

それもそーだよねーと、娘さんと同世代の私は思う。

「だけど、こうやってまとまった休みをくれる社長には感謝するよ。ありがとうございます」

田口さんが私に頭を下げた。
慌てて「私はお父さんじゃないですから！」と田口さんの肩をポンポン叩く。
田口さんも「そうだった」と笑って、顔を上げた。



『朝霧ビル』はビルとは名ばかりで、そんなに大きなビルという訳では無い。パッと見はマンション。
よくドラマに出てくるような広いロビーは無いし、格好良い玄関があるって訳でも無い。
1階にはビルが建った時から入ってる喫茶店。
カフェじゃなくて、喫茶店。

そして私。
社長の娘とは名ばかりで、お小遣いも中三で3000円だったし高校になると「社会勉強だ！バイトしろ！」と言われて、その3000円さえも無くなった。
だから金銭感覚とかは、めちゃめちゃ普通。
むしろ貧乏性。残念な社長令嬢。

3.御挨拶。→←1.夏のはじまり。

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