７１話 ページ23
「もう、なにも話さなくていいさ」
そう呟けば、お小夜は口を噤んだ。無表情のまま、だけど涙だけは彼の目からぼろぼろと音もなく零れている。
きっと、お小夜は今何も…右も左もわからないような子供の状態なんだ。すべてが暗く見えて自暴自棄、それでいて有耶無耶に藻掻くだけしかできない。
手を差し伸べて一筋の光を与えてもいい。だけど……今のこの状態のお小夜に下手に光を与えてしまっては、お小夜という刀剣が、違うものへと変わっていってしまう。…それは、良い事ではない。
どうする、べきか
「…………貴方は、僕が此処に居たら迷惑になるでしょう？こんな、何もわからない…存在価値もなにもかも理解のできない僕が本丸なンかに居たら…兄さま達の、重荷にもなる。だから、死のうと思った。新しい僕を迎えて、新しい思い出を作っていってくれた方が…」
告げられた言葉に、アタシは軽く顔を顰めた。
「馬鹿かい、アンタは。」
「ぇ、」
急に不機嫌そうな声音になったアタシに、お小夜は少し驚いたような、怯えたような声をだした。
そんな小夜を構いもせず、腕を伸ばして人差し指で小夜の胸をとす、と突いた。その挙動に、お小夜は目を白黒とさせたまま。
「………全く、いいかい。まず、迷惑になってるかどうかッてのはアンタが決める事じゃあない。」
「っ、」
「宗三にはちゃんと聞いたのかい？いったのかい？彼奴も必ずアタシとおんなじことをいうだろうさ。“迷惑になんかならない。寧ろ傍にいて新しいものを見つけていこう”ッてさ。
存在価値が分からない、何も見えない…ならアタシのこの本丸で存在価値を見つけりゃあいいさ。見えるものを増やしていけば良いさ。本丸は居場所であると同時に学び屋だ。アタシもアンタ達刀剣も、日々勉強して鍛えて強くなる。」
……ちょっと、日本号の受け売り紛いな事言っちまったケド。
心の中で苦笑しながらも、お小夜の頬を濡らす大粒の涙を少し強めに拭ってやる。
むぎゅ、と頬を挟んで視界を合わせれば、安心させるようにニンマリと笑みを浮かべる。受け売りでも何でもない。アタシ自身の心からのコトバを……
「この世に存在しちゃならない者ッつーのは、無いンだよ。……新しく見えるモンを探していこうじゃあないか、お小夜………任せてくれるかい、アタシに、アンタという刀剣を。」
「………ッん」
頷くと同時に、目の前に一片の桜の花弁が横切った。
信頼関係の証のその桜は、何時もよりひどく美しく見えた。
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病蛟(プロフ) - 勇者の人さん» お褒めの言葉をいただきありがとうございます…自分自身も楽しみ、かつ読者にも楽しんで感動して頂けるような小説をモットーに書いていますので、とてもありがたく思います。体を気にかけていきつつ投稿させていただきますので楽しみにしていてくださると幸いです。 (2021年9月22日 21時) (
レス) id: 1220734e66 (このIDを非表示/違反報告)
勇者の人(プロフ) - 文章が綺麗でとても読みやすく、読んでいて感情が揺さぶられたりと素晴らしい作品ですね。応援しています、これからも無理しない程度に頑張ってください。 (2021年9月22日 2時) (レス) id: 0ba614db75 (このIDを非表示/違反報告)
病蛟(プロフ) - もっちーさん» 一期一振に関する誤字を教えていただき有り難う御座います。修正作業に取り掛かります故…これからもこの作品をどうぞよしなに、楽しめるような続きを投稿させていただきます。 (2021年9月11日 22時) (レス) id: 1220734e66 (このIDを非表示/違反報告)
もっちー(プロフ) - はじめまして！続き楽しみに待ってます！！それと一期が一護になってます! (2021年9月11日 19時) (レス) id: 5828451b09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：病蛟 | 作成日時：2021年8月18日 23時
