５ ページ25
『…めでと、ござい、ますっ……』
声が、震えた。
めでたい日なんだから、もっとちゃんと祝いたかったのに。
だめだなあ、オレ。
でも、もう最後なんだ。
卒業する、せんぱい。
屋上に来るのは、最後で。
こうやって、話せるのも最後。
せんぱいと交わした言葉、ここで過ごした日々が蘇ってくる。
もっとも、いつも話すのはオレばっかりで、せんぱいは相槌を返してくれるくらいだったけど。
そんな他愛無い時間が好きだった。
ここでの時間は、きらきら輝いた宝物みたいだった。
それも、もう……
「じゃーな、ふじがや」
「…またっ…きたやませんぱい、また…！」
「……あぁ」
屋上から帰ろうとしたせんぱいに。
縋るように、言葉をかける。
せんぱいは、きょとんとしたあと、うっすら微笑んで頷いてくれたけど。
(……ああ、きっと)
もう、会うことはないだろう。
なんとなく、だけど。
確かに、そんな気がしたんだ。
伝えたかったことがあった気がした。
初めてここに来た日の胸の高鳴り。
あの日からずっとあるんだ。
せんぱいの卒業が近づくにつれて、それは痛みを伴ってきて。
とうとう、この日になってしまった。
ここ以外では、いつも誰かと一緒にいるせんぱいだったから、いないんじゃないかと思ったけど。
せんぱいはここにいた。
(……眩しい、な……)
一人残された、屋上。
せんぱいの特別な場所だったけれど、少しはオレの場所にもなっていたんだろうか？
あの日感じた、居心地の悪さはもうないけれど。
……オレも、ここに来ることを許された、特別だったのかな。
だったら、よかったのに。
見上げた空は青くて、白い雲がキレイで。
吹く風に、切なさが込み上げてくる。
オレは、またここに来れるけど。
ここに、せんぱいはいないから。
眩しいくらいに輝く太陽に、目を細める。
その光を浴びて、きらきら輝く髪を思い出した。
なにも言えず、なにも聞けなかった、最後まで。
たぶん、きっと、オレがここに来るのも最後になるだろう。
最後に見た屋上は、太陽の光によく照らされていて。
オレの宝物も、光に侵食された気がした。
―――
この二人は社会人になっても再会しない未来を想像していました
Ｋにとっては「そんな事もあったっけかな」
Ｆにとっては「あの日伝えていれば何か変わっていたのかな」
Ｆの一生引き摺る片想い(とか言いつつ社会人になって再会して恋が始まってもいいのかな)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 81人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちび(プロフ) - ありがとうございます⚪︎はい気長に待ってます🙏 (2023年3月13日 22時) (
レス) id: ff59837987 (このIDを非表示/違反報告)
水城（ミズシロ）(プロフ) - ちびさん» 藤北でなくても大丈夫ですか？それでしたら、近いうちに確認して問題なければ残りを上げますね。遅くなったらすみません…気長にお待ちください… (2023年3月13日 22時) (レス) id: 95b0a64fd2 (このIDを非表示/違反報告)
ちび(プロフ) - あっ藤北で無くても大丈夫ですよ、また良かったら⚪︎ (2023年3月13日 22時) (レス) id: ff59837987 (このIDを非表示/違反報告)
水城（ミズシロ）(プロフ) - ちびさん» 当時書いていたお話は大体UPしておりまして、ほんの少し残っているくらいなんですが、確か藤北ではなかったような…すみません…更新停滞している中、コメントいただけて嬉しかったです。また藤北更新することがありましたらその時はよろしくお願い致します。 (2023年3月13日 22時) (レス) id: 95b0a64fd2 (このIDを非表示/違反報告)
ちび(プロフ) - 良かったらまた続編お待ちしております、めっちゃ素敵なお話でした⚪︎ (2023年3月13日 22時) (レス) @page38 id: ff59837987 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：水城（ミズシロ） | 作成日時：2020年12月31日 15時
