心が弱い審神者と刀剣男士 肆 【刀剣乱舞】

百三十振り ページ10

「A、ノートの進み具合はどうだ？」
電話の向こうからの問いに、思わず書き写していた手が止まった。
「……」
「ははっ、まだまだみたいだな。手伝いに行こうか？」
「いやっ！それは大丈夫っ！！これ以上悠璃に迷惑掛けられないから！」
「迷惑だなんて思ってないが？」
「悠璃が思ってなくてもね、私が思うんだよ」
シャープペンシルを手で弄ぶ。
「……四日間のノートの写真、全部送ってもらってるんだから。これ以上手を煩わせたくないの」
「Aは変わらず真面目だな」
呆れた様に苦笑する悠璃。
再度手を動かし始め、残りの分に手を出そうとした時、タンタンと階段を登ってくる音が聞こえた。
「悠璃、誰か来たから切るね」
「私の名が知れた所で何も起こらないだろうに」
笑って言いながら、悠璃は私との通話を終わらせた。
悠璃の竹の様な性格、好きだなぁ。
「おい主」
襖が開くと同時に呼ばれ、振り返る。
「同田貫」
「飯だぞ」
「もうそんな時間かぁ」
ぐっと腕を伸ばして応える。
「今行くよ」

私が合戦場に出陣した日から、二日が経った。
池田屋事件に関与しようとした大量の時間遡行軍の討伐は昨日終わり、今日は休暇日。先の時間遡行軍討伐に関する報告会議は明日の午後七時よりとされていた。

「あんたの近侍はまだ起きねぇな」
部屋を出る直前、同田貫は寝ている山姥切に目を移して呟いた。
「…そうだね」

山姥切は、手入をしてから起きていない。
最初は自室で寝ていた山姥切だが、余りにも私が様子を見にくるからと、堀川と山伏が山姥切を私の部屋に移動させた。

様子が分かるから良いけれど＿＿起きないのは不安が募る。
「どうせ何時か起きんだろ。気にすんなよ、主」
「そうだね」
階段を降り、大広間への道を二人で歩く。
少しして、私の前を歩いていた同田貫が不意に止まった。
倣って止まる。
「同田貫、どうかした？」
「…ぃ…」
呟かれた言葉は何も聞こえなかった。
「何か言った？」
問う。
同田貫が、私に向き直った。
そして口にしたのは、とある言葉。
同田貫が＿＿否、『刀剣男士』が知る由の無い、固有名詞。
それは＿＿
「堀川A……そう、言った」
＿＿私の、真名だった。

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