兎と猫。 ページ6
特に問題もなくいつもどうりの学校生活を送り、放課後に入った途端、Aは真っ直ぐに帰路に着く。
たとえどんな理由で始めようとも、情報屋と名乗る以上、求められることには完全な状態で提供する。それが《シノ》としてこのヨコハマの裏社会での地位を確立させる所以だ。それは《黒猫》という二つ名を付けられた、ということが大いに物語っている。二つ名というのは少々気恥しいが、今更止められる訳でもないので、諦めているわけだが。
10年前のあのことは今でも鮮明に覚えている。が、あれは殆どAの主観的な史実に過ぎない。それを提供するのもどうだろうか、と頭を悩ませる。
取り敢えずはAの記憶にある限りの客観的にも見て取れる情報を提供することになるだろう。
夕食を早めに済ませて、着替えていると時間は十分な頃合を迎えていた。仕事での移動は基本的にバイクで行っている。そのため素顔がバレないようにするのも兼ねてフルフェイスのヘルメットをかぶるのだが、これが髪を纏めないとかなり邪魔になるのでAは慣れた手つきで長い濡れ羽色の髪をたばねて結ぶ。そしてライダージャケットに袖を通し、部屋をあとにする。
黒を基調とした艶やかなフレームには所々にある差し色の赤が絶妙な調和をもたらしている。それに股がったAはエンジンを入れ、夜のヨコハマに繰り出す。
*********
メールで指定された住所に向かうと、そこは横浜港が眺める埠頭だった。やはり、相手も人目に付くのは不味いのだろう。辺りは赤褐色や群青色のコンテナが積み上げて、規則的に並べられている。
入口から4列目、左から5番目。指示されたコンテナの近くでバイクを停めて、コンテナに背を預ける。
この裏社会では何が起きてもおかしくはなく、以前Aも背後から取引相手の部下に襲われた経験がある。その時はヘルメットが犠牲になってくれた訳だが。なのでどこの時代の奴か、と問いたくなるが背後を取らせない為の対策である。
「こんばんは。お待たせしました」
「いえ、大して待っていないので大丈夫です」
それは良かった、といかにも貼り付けたような嗤笑を浮かべているのが今回の取引相手。入間銃兎。
「改めまして。私、入間銃兎と申します。実はこういうものです。」
真紅のグローブ越しにでも伝わる男性らしい節榑立った手は慣れた手つきで警察手帳を開く。
そこには目の前にいる彼の顔写真と、名前。そして"組織犯罪対策部巡査部長"と記されていた。
39人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雪@そらなー - 鵠さん» 作ったよ〜!裏切り+愛=呪いで検索かけたら出ると思う! (2018年12月12日 20時) (レス) id: a70a7db5f1 (このIDを非表示/違反報告)
鵠(プロフ) - 相澤雪さん» ありがとう!もし作ったら教えてね (2018年12月7日 22時) (レス) id: c75e48906d (このIDを非表示/違反報告)
相澤雪 - めちゃめちゃ参考になった!更新頑張って!! (2018年12月7日 15時) (レス) id: a70a7db5f1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鵠 | 作成日時:2018年12月3日 22時