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塗り重ねた嘘 ページ5

「A〜おはよ。遅刻ギリギリに来るなんて珍しいじゃん」

「寝坊した。」

___嘘。

栗色のセミロングを小さく揺らして手を振る彼女は中学の頃からの腐れ縁の吉野 咲(よしの さき)。元はといえば、いじめっ子といじめられっ子というわかりやすい関係だった。だが、それは咲の思春期が人より早く来て精神的に荒れていただけのよくあること。所謂若気の至りと言うやつだろう。
実際に腹を割って付き合ってみると、とても楽観的で一緒にいると自分が思い悩んでいることがどうでも良くなる。

「眠い。」

「A何時も眠そうな顔してるじゃん」

「失礼な、東京湾に埋め立てられたいの?」

「やれるものならやってみな。それより課題やってきた?」

「見せないよ?」

「えぇ」

歳らしくもなくごねる咲を適当にあしらうと、本人にもそれがバレたらしく、難癖をつけてくる。

「ねえぇ〜今度なんか奢るからぁ〜」

「………チーズケーキ」

「よっしゃ、いいよ」

仕方なしに課題を渡すと、咲は悪戯っぽく笑いありがと、と短く告げる。こういうところだ、この笑顔を見るとなんだかどうでも良くなる。

「折角だし、今日行かない?」

「あ〜…ごめん今日は無理」

「またバイト?無理しちゃ駄目だよ?」

「うん。大丈夫」

___これも嘘。無理しなくちゃ意味が無い。この記憶を、あの日の恐怖を飼い慣らすには多少の無理など承知の上。どんな手段をとってでも…

「A?起きてる?」

「何処かのうるさい人のお陰でパッチリだよ」

「出た〜Aの嫌味攻撃うざーい」

「そんなこと言ってないで早く課題終わらせなよ。時間、不味いよ」

本当だ、といそいそと咲が手を動かしているうちにAは席につき文庫本を開く。最近気に入っている作者の本、笑うことを忘れた人間のためにどんな手を使ってでも笑わせようとするペテンな主人公の話。そんな生き方がどこか自分に似ているようで、その一方で人の為に行動している所は自分とは真逆で、そんな所に惹かれて読み続けている本。

「…嘘ですよ。」

主人公の台詞を独りごちる。それは誰にも届くことなく、空気だけを揺らして消えてゆく。
そう、嘘だらけなのだ。この日常も、全て。

____下地が見えなくなるくらいに塗り重ねた油絵のようで、本当の自分は塗り重ねた嘘で誰にも見られることは無いんだろうな。





__水篠Aという人間__

兎と猫。→←異常な日常



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雪@そらなー - 鵠さん» 作ったよ〜!裏切り+愛=呪いで検索かけたら出ると思う! (2018年12月12日 20時) (レス) id: a70a7db5f1 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 相澤雪さん» ありがとう!もし作ったら教えてね (2018年12月7日 22時) (レス) id: c75e48906d (このIDを非表示/違反報告)
相澤雪 - めちゃめちゃ参考になった!更新頑張って!! (2018年12月7日 15時) (レス) id: a70a7db5f1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年12月3日 22時

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