【文スト×東方】第三篇 この余白はそれを書くには狭すぎる。

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数秒の沈黙。

双方はお互いを探り合うかのように視線を絡ませる。

ひどく時が緩やかに流れた。







「はぁ、やっぱり奸智の権化様の噂は正しいようね。痛いところを突かれたわ」

「ふふ、ぼくより人生経験のある貴女に褒められて光栄です」

「ひとこと余計ね」







青娥が、先ほどまでの優美な雰囲気を一掃した。



先程の淑女のような笑みは姿を消し、眉を顰めて苦虫を噛み潰したかのような顔を彼に向ける。



ドストエフスキーも、どこか面白そうににこりと笑った。







常人であれば、提示された謎に首を傾げるどころかおかしささえ理解できない状況。







だが、彼と彼女にとって、今の状況は“相手が自分と話すに相応しい”と理解できた状況であり、こうやって二方があいまみえた運命を祝福していた。





数刻前の、最初に会った時の科白。







“ごきげんよう、そこの桂男さん”


“ぼくもSólのような貴女に会えて感激ですよ。
ぜひ今度不老長寿の秘訣を教えていただきたいところですね、娘々さん”







これは、相手がどれだけ賢いのか、相手を測る互いの試験であった。

ほんの一、二文である会話だが、この言の葉一つ一つには深く複雑な意図が絡まっていたのだ。










まず、青娥の言った“桂男”という言葉。

ドストエフスキーを指して言ったことは確かだが、彼女は彼の名を知らないわけではない。

完全に意図的なるものだ。

桂男、という単語自体あまり知られているものではない。



桂男とは複数の意味のある単語だ。



一つは、美しい男性ということ。
浄瑠璃などでしか聞かない珍しい単語だが、博識な者であれば知っているであろう。



そしてもう一つは、月の代名詞である妖怪のこと。
これは中国と日本に伝えられている噺だ。
だが、中国と日本では微妙に違う。


中国では、月に住んでいるとされる男のことを言う。
神話や昔話に出てくる人物で、月に生えているという月桂樹とも関係のある人物である。



そして、日本に伝えられる妖怪の伝説は、人の命を吸うという恐ろしい妖怪だ。

その内容は、満月でない夜に月をじっと見ていると桂男に命を吸われるというもの。

天照の姉弟の月詠の影響で、月＝死という概念の根付く日本ならではと言えるものだろう。


青娥はこれらの“桂男”の意味を掛け合わせて、彼に表の字面とは違う言葉を暗喩していた。

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