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「ああ…………………………愉悦です」
そして、まるで心酔しているかのように微笑む。
八千慧は顎でカワウソを窓から逃したかと思うと、わざわざ屈んで紅葉に視線を合わせた。
「やはり、弱者を虐げてこそ我々畜生の本望。
実にそそられるわ」
八千慧は顎でカワウソを窓から逃したかと思うと、わざわざ屈んで紅葉に視線を合わせた。
「っ……、思い出したぞ………。
吉弔───龍の堕とした、不出来な失敗作…」
───龍が二つの卵を産んだ時、片方は龍となり、不出来な片方は吉弔となる。
漢方の妖怪でもある吉弔は、龍に力と信仰を根こそぎ奪われた失敗作───。
だが、紅葉のその一言は、
八千慧の地雷を踏み抜いた。
「………なよ」
「? 今、なんと…」
「見誤るなよ!!
たかが人間の分際で!!」
そのまま情動的に吼えた八千慧は、唯一の地雷を踏み抜かれ周りが見えなくなっていた。
(これは………思わぬ一手じゃ)
怒りは、勝負に於いて非常に重要なトリガーになる。
怒りによって周りが見えなくなり劣勢になるなり、怒りのままに相手を暴走させてしまい負けに至るなど、状況は一気に変わる。
この怒りをどう捉えるかが、勝負の要であると紅葉は肌身に感じた。
「金色夜叉!」
命を振り絞り叫ぶと、夜叉は勢いよく鞘から剣を引き抜いた。
───【獣符】咎重き鬼畜生───
彼女のフルパワーの攻撃が、夜叉を迎え撃つ。
先程の数十倍──否、数百倍近い殺傷力に、彼女は本気で“殺しにきている”と体感した。
そして、再度身を引き締める。
今の彼女は隙が多い。
このとめどない弾幕の雨を攻略するにはどうするべきか。
(ならばこちらも、卑劣な手を使うのみ)
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作者名:颯貴@きっちょー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/MizuhasiSatuki/
作成日時:2021年7月18日 17時