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時は、再び共食いの始まる一週間前へと遡る。
ヨコハマから川と山を越え
そこには、現世から隔離された妖怪たちの楽園『幻想郷』が存在した。
そこは、今日も変わらず郷らしく、人里には寺子屋からの元気な子供の声が響いていた。
現在14時、人里にある寺子屋も終わり、そこの教師である上白沢慧音と仲良く談笑する者がいた。
「お疲れ様です、慧音先生」
その“彼女”は高い位置に括った黒いひとつ結びを揺らしながら慧音に労りの意の買ってきた団子を差し出す。
「おや、___じゃないか。毎度毎度、算数の指南・助っ人に来てくれることを感謝するよ。
なんせ人手が足りないからな。今日も生徒たちが判りやすいと喜んでいたぞ」
慧音は笑顔で笑いながら、人里で流行している団子をわざわざ購ってきた彼女の人間性に感動しつつ団子を一個頬張った。
美味いと正直な感想を寄越した慧音に彼女は口元を綻ばせる。
「そんなことはないです。趣味半分みたいなものですよ、子供が好きなだけなので」
_____は笑顔で謙遜するも、慧音の謝辞は止まらない。
「いや、一回部屋を覗いたことがあるが、外の世界の数学書。お前からすれば面白いものなのだろうが私にはさっぱりだ。
しかも、外の世界の家にある蔵書のほんの一部なのだろう?」
彼女は褒められ慣れていないのか曖昧な苦笑で返す。
「君はすごい人間だよ、増田すみか。」
慧音の言葉に彼女─── 増田すみかは笑みを消し、眉を下げた。
「やめてくださいよ、今は増田じゃありません」
「今は聖 すみかですから」
彼女がそう言って持っていた算術書を小脇に抱える。
遠くで己を拾ってくれた尼の声が聞こえた。
きっといつものように宗教勧誘をしているのだろう。
だが、尼───聖白蓮率いる命蓮寺はあまり人間の入信者には苦労していない。
彼女に付き従う寅の妖怪、かの有名な毘沙門天の信仰の代理人である寅丸星の御利益に
もちろん、白蓮がそれを赦すはずもなく、欲に塗れた人物の入信は遠慮しているのだ。
しばらく団子を交えた談笑をしていると、すぐ近くで空間が大きく
側から見るとすごい字面絵面ではあるが、ここ幻想郷ではさほど不思議なことではない。
「元気そうね、すみか」
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作者名:颯貴@きっちょー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/MizuhasiSatuki/
作成日時:2021年7月18日 17時