・ ページ11
侑李side
にーちゃんは誰か親切な人が話しかけてくれても、名前を言えないし、電話も持ってない。お出かけの時はヘルプマークを持っているけど、母さんの慌てようからしても今日は流石に持っていないだろう。
僕は部活の疲れなんて忘れて、ただ走った。
侑李「にーちゃーん!!にーちゃん!!」
叫びながら走ると行き交う人たちに見られるけれど、そんなのお構いなしだ。
そして母さんや僕がここまで心配する理由はもう1つ。
にーちゃんがふらふらしちゃうのはただシャキッとしてないからって訳じゃなくて、前庭機能に障害があるせいで平衡感覚が取りづらいから。
大きな回転性の目眩を起こしたり、まっすぐ歩けなかったり、すぐ転んでしまったり。
車道に投げ出されたりしていないかとか、自転車と接触してないかとか。
考えれば考えるほど不安が募る。
どうか無事で居てください、と願うばかりである。
探しはじめて45分。もう一度母さんに連絡を入れようと思ったその時。
スーパーの駐輪スペースにざわざわと人だかりが出来ていることに気がついた。
〈なんだよ、俺が悪いみたいじゃねーか!…俺はやってねーからな!!こいつがぶつかってきたんだ!〉
そんな叫び声が聞こえて、近づくとドミノ倒しになっている自転車が目に飛び込んでくる。
そしてその前に立つ男性と、自転車の上に倒れ込みながら耳を押さえるにーちゃん。
男性が声を張り上げるたびにびくびくと怯え、大きな茶色がちな目が揺れていた。
きっと大きな目眩を起こしてる。
侑李「にーちゃんっ!!!」
僕は人の輪に飛び込んで、にーちゃんに駆け寄った。
本当はこんな人に頭なんて下げたくない。でも、今考えるべきはにーちゃんの体。
侑李「兄がご迷惑をおかけしました。自転車は僕が責任持って直します。本当にすみませんでした。」
〈ったく、気をつけろよな…〉
悔しさ半分頭を下げると、その男性は納得したのか、文句を垂れながら帰っていった。
・
269人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あむ | 作成日時:2021年9月1日 13時