好きと気付いたバレー馬鹿【木兎光太郎】 (ページ46)

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46、合宿②⑨ ページ46

「皆～お疲れ様っ！」

「また全国で」

下山と大西が短く挨拶をすると、選手達は深く頭を下げ、“ありがとうございました”と声を揃えた。

「疲れた～」

「特に何にもしてねぇだろ」

「ちょ、梟谷のエースとして頑張りましたぁ！」

大きく伸びをしながらバスへと向かうA。横で広川が腰に蹴りを入れる。

「A。挨拶周りするから来なさい」

「あ、はーい！」

その時岬から声が掛かる。
挨拶周りなら先程した筈だ。不思議に思いながらも広川に一言告げると、岬の元へ走って行った。

「……岬姉。挨拶周りって、」

「普通に呼んだら来ないでしょ？だから挨拶周りよ」

だがそこへ辿り着いたからハッとする。

「A、話があるんだけど……」

岬の目の前に木兎と赤葦がいた事に。

「えっと、……喜んで」

何故気付かなかったのだろうか。悔やんだってもう遅い。

Aは木兎の言葉になんて答えたら良いか分からなかったが、しっかりと頷いた。

「じゃあAは男バレのバスに乗って。席は余ってるから気にせずどうぞ」

「……え？話って今じゃなくて、ですか？」

赤葦がAの背中を押しながら歩き出す。
慌てて木兎の顔を見るも、俯いている為表情が良く見えない。

「A。学校に着いたら3キロ外周、その後体育館でレギュラーとB軍の試合よ。負けたら即ベンチ外。気を引き締めなさい」

「……はい」

女バレの恒例行事はまだ終わらない。
合宿から帰ると同時に始まるレギュラー争奪戦の試合。
この四日間、レギュラーメンバー以外は学校の体育館で普段通りの練習をしていた。
勿論、レギュラーの座をかけて。

「京治も早くバスに乗りなさい。気を付けて帰るのよ」

「岬姉も気を付けて。木兎さん、行きますよ」

さて、これから梟谷男バレのバス内で何が起きるのか。
Aはハラハラして仕方がない。

「あのままだと、レギュラー取られるわね」

三人の後ろ姿を見詰めながら、岬は小さく呟いた。

普段からAに気に掛けている岬だが、色恋沙汰には余り手を貸してこなかった。
しかし今回は別問題だ。何せ最近のAはバレーに集中しているようで出来ていない。
流石にこのままでは不味いと、赤葦に相談したのだろう。
勿論赤葦もAの異変には気付いていたが。