運の悪い二人 ページ37
「ふうん。まあ、知ってたよ」
平井は、赤井をチラリと見て、そう言った。
矢張り、バレていたか……
赤井は確認する。
「一昨日、あの少女から聞いたのか?」
「いや?」
平井の口から出たのは、否定の言葉だった。
赤井の疑問は深まる。
「じゃあ、いつから……」
「最初から。赤井さん、アンタが来て俺と会ったその時から、気づいてたよ」
平井はニヤリとする。
「ライフルバッグを楽器ケースって言ったのが悪い。俺は楽器ケースなんて、見慣れてる」
そう言い放つと、今まで隠していた楽器を見せる。
それは、黒い箱型のケースに入っていた。
リュックのように背負うヒモもついている。
素人目には、ライフルバッグとそう違わない見た目だが、平井には判る。
それは、彼がいろんな場所で楽器を吹いてきて、様々な楽器の、様々なメーカーの、様々なケースを見てきたからだった。
「俺は私立中央高校、吹奏楽部の部員だから」
平井は、どこか誇らしげだった。
彼にとって吹奏楽はライフワークであり、青春を懸けているのだから、それもそうなのかもしれない。
そして、付け加えるように言った。
「決め手は名前だったけど」
「いい考えだと思ったんだがな」
「俺でも気づくわ。沖矢昴を名乗る、楽器ケースに似てるけどそうじゃないモノを背負って、黒いニット帽をかぶった緑の目の男」
平井は呆れる。次元が変わってどれだけ焦ったかは知らないが、安直すぎる。
……そういえば、江戸川コナンも『平井太郎』と名乗ったって、アイツが言ってたな。
ごく普通の名前に近づけたのは、シンガポールで『アーサー平井』と名乗った時の反省あってだろうが……相手が悪かった。
よりによって、あの読書家に当たるなんてね。
小学校でも、中学校でも、毎日のように図書室にいて、小難しい、分厚い本を読んでいた。
もう何年も開かれていなそうな、古い本まで。
「銃刀法違反犯を匿ってやっただけ、良い方でしょ?赤井さん、ここじゃ本来存在しないんだから」
「博士、装置作りは進んでる?」
阿笠邸では、博士が昼夜ぶっ通しで時空移動のための装置を作っていた。
「それが、あとどうしても一つ、この物質がいるんじゃ……小さくていいんじゃがのう」
「時空を歪める正六面体……他に、あるものなのかしら」
「これも、大分苦労して手に入れたからのう……」
二人が困っていたその時、玄関のチャイムが鳴った。
133人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
桜 - これめっちゃ現実性あるねぇ (2020年8月30日 20時) (レス) id: 44f3b52daa (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - コナン側、主人公側、互いの立場から来る優位性のようなものがなく、また主人公の心情や周りとの関係性の変化などとても読み応えのあるものでした。読後感はどこか物悲しく、しかし確実に続編への布石を……!このあと続編の方を拝読します!ありがとうございました! (2020年8月18日 0時) (レス) id: ad5934c8e1 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サブタイトルでちょっと笑って読み始めたのですが、読み進めるうちにどんどん引き込まれて行きました。何より他の二次創作との差を感じたのが、主人公たちのいる世界が「コナン」側の世界とまるで対等であるように描かれていると感じた所です。 (2020年8月18日 0時) (レス) id: ad5934c8e1 (このIDを非表示/違反報告)
綺月(プロフ) - ナミさん» 最後まで読んでいただきありがとうございます。続きは……もう少しお待ちください! 作者としても、チーム『マクスウェルの悪魔』には、残された沢山の謎を解決してもらいたいですからね笑 いつも、感想と励ましの言葉をいただけて、とても嬉しかったです。 (2020年6月30日 22時) (レス) id: a7057fda4f (このIDを非表示/違反報告)
ナミ - 最終回とっても面白かったです。組織の研究所みたいなことを言っていたので今度はトリップかなと続きが楽しみです。続きがどうなるのか?それとも無しなのか?出来れば続いて欲しいです。最後にお疲れ様でした。 (2020年6月29日 4時) (レス) id: 134760d3d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:綺月 | 作成日時:2020年5月9日 0時