『女生徒』 6 ページ7
――――今日は七時くらいに帰ります。お客さんが二人来るから、お客さんの分のご飯もお願いします。
いつも帰るの遅くなってごめんね。おいしいご飯、ありがとう。
お母さんより
「……珍しい」
お母さんがおじいちゃんたち以外で人を連れてくるのは初めてだ。
それも、タイミングを見計らったように、あの『女生徒』を読んだ後に来るなんて。
どうしよう、何作ろう。人に出せるようなもの、作れないよ。
あれこれ考えた結果、ハンバーグにした。煮込み焼ハンバーグ。
ハンバーグを焼いて、煮込んでいるうちにカボチャを茹でて、ミキサーにかけて、牛乳を混ぜて温める。
買ってきたロールパンをトースターで少しだけ焦げ目をつけた。一つだけ失敗して、黒焦げになっちゃったけれど、もう一つ焼いて、失敗したのはお母さん達が帰ってくる前に食べた。
野菜を手で千切って盛りつけただけの野菜が、変に浮いて見えた。何でだろう。いつも通り作ったはずなのに、いつもよりおいしくなさそうに見えた。
自身が無くなってきた。けれど、お客さんはそんな私を待ってはくれない。チャイムが鳴って、来ちゃったんだ、と思ったと同時にため息が出た。
おじゃまします、と人の良い笑顔で入ってきたのは、上品そうな、五十代くらいの夫婦だった。
お母さんも私も、にこにこ笑っていた。
お客さんは、私の自身の無かった料理を、おいしいと褒めてくれた。私はほっとしたけれど、嬉しいとは思わなかった。
「まだ高校生なのにこんなにおいしい料理が作れるなんて、本当にいい娘さんをお持ちですね」
「いいえ、そんなことは……この子もまだまだなんですよ」
ああ、なんか、面白くない。早く寝てしまいたいと思った。
ご飯を食べた後も、お客さんはお母さんとしばらく話していた。
余り話を聞いていなかったけれど、お父さんの話題に入ったときには、いつもより真剣に耳を型抜けた。
「五年前にご主人がお亡くなりになったということは、Aちゃんはまだ小学生だったのよね。辛かったわよねえ」
早く帰ってよ。
お父さんを馬鹿にされたみたいで腹が立った。辛かっただろうって、そんなこと思ってない癖に。
そんなこと言った奥さんは、育ちのよさそうな人だった。きっと、世間知らずのお嬢様で、上辺だけで私のことを見てるんだ。
――――お父さんに会いたい。
ふと思った。なんだ、私も『女生徒』じゃないか。
一生懸命に、主人公との違いを探してた自分が馬鹿みたいだ。
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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時