『マルレネ・ディートリッヒ』 2 ページ18
中原中也。『中』という文字が交互に二つ並んだ、どことなくリズム感のある名前。
「この中から、好きな詩を一つ選んでおいてください。
では、また金曜日に」
そう言って別れた黒子先生の背中を眺めながら、今現在私の手中にある詩集をなでる。
小説はたくさん読んできたつもりだけど、詩はじっくり読んだこと無かったなあ。
誠凛高校の校舎を後ろにぼんやりとしながら駅まで向かう。それがいけなかったんだ。少し大きめの小石につまずいて足をひねってしまった。
全く私は……つくづくとろくさい自分が嫌になる。歩くとジーンと痛むけど、我慢して歩くしかない。幸い駅まではそう遠くない。
いつもは満員で、座席なんて一つも開いていないのに、今日は一つだけ、空いているところを見つけた。電車に揺られながら、先生が選んでくれた『中原中也全集』を読んでいく。詩は初めてだけど、割とすんなり読める。
しばらく夢中になって読んでいると、足元に大小二つの靴が見えた。どちらも私の足の少し前にある。
ゴホン、というわざとらしい咳払いも聞こえ、恐る恐る頭をあげた。母親らしい女性と、小学校低学年くらいの男の子がいた。母親の方は、素知らぬ顔をして、でも確かにチラチラと私を見ていた。
男の子の方は、私が顔をあげた途端に大きな声でぐずりだした。明らかに私が顔を上げるのを待っていたみたいだ。
私は、片足が主張する痛みと、胸に生じた嫌な予感を、なるべく飲み込もうと喉を小さく鳴らした。これが私の気のせいと自意識過剰だったらどんなにいいか。
何しろ、目立つのは大嫌いだ。
だがそんな私の願いは通らなかった。
「おか―さぁん、僕もう疲れたーー座りたいよぉ」
下手に駄々をこねるのでは無く、子供ながらに我慢したんだよ、とでも言いたげな態度に加え、それでも控え目に、遠慮しているような表情と声色で。
「こら。静かにして。そんなに五月蠅くしたら迷惑でしょう?お家まで我慢して」
母親は男の子をなだめていて、いかにも申し訳なさそうな顔をしてはいるが、どこか責めるような声色と、こちらを非難するような目つきで、母親の腹の中が見えた気がした。
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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時