『マルレネ・ディートリッヒ』 １ ページ17
秋。といってもまだ残暑が残る九月の終わり。
長い、長い夏休みが終わったと思ったら、体育祭や文化祭の準備や後始末に追われて、最近は図書室に足を運ぶ回数もめっきり少なくなっていた。
今日は久しぶりの部活。ずっとなかったぶん、すごく楽しみだ。
廊下はまだ暑いけれど、図書室は涼しい。カウンターを通り過ぎて、いつもの席に座ると、読みかけの本を取り出して読み始めた。
僕が来た時には、彼女はもうそこにいて本を読んでいた。相変わらず気づいていないようだ。
目の前に座って、読書中の彼女を見る。長い黒髪が、小さな耳から滑り落ちて、その一瞬の動きでさえ絵になる。
いつになったら気づくだろうか。残りのページはまだ大分ある。このまま眺めているだけでも面白い――――読んでいるうちに、彼女の顔は笑ったり、怒ったり、とても表現豊かだから――――けれど、それでは部活の意味が無くなってしまう。
「…………あれ、先生？」
「気づいたみたいですね」
どうやら気づいたようだ。何度もこういうことがあるのに、いつも彼女は同じ反応をする。
「またずっと見てたんですか」
「はい」
「〜〜っ見ないでください」
と、言われましても、見ていて飽きないんですよ。
怒る彼女をなだめてから、本棚の方へ向かう。
付いてくる彼女を確かめながら、一冊の本――詩集を抜き取る。
「笹草さんは、詩を読んだことはありますか？」
「い、いえ。国語の授業で読んだことくらいしか無いです」
「なら、挑戦してみましょうか」
――――『中原中也全集』中原中也著――――
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作者名：みい x他1人 | 作成日時：2017年5月25日 20時
