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『……っお、お邪魔、します……』
「ん、そんなに畏まらんくてもええよ」
私は部屋にそろりと入りながら、内心気が気ではなかった。
何故なら、現在私は氷織くんの家にいるからだ。
氷織くんのご両親にはまだ挨拶できていないし、そもそも氷織くんの家は関西の方にある。
私と氷織くんが出かけた場所は、関東からも関西からも近い場所だったから良かったけど、もし“
氷織くんが誘ってくれたのは嬉しいが、それでも時間が気になってしまうのだ。
私は部屋の中で立ち止まり、氷織くんに言った。
『えっと……、話って何かな』
氷織くんは私を見ると笑いかけてくる。
「ーーAちゃん、顔が固まっとるよ。僕としてはリラックスしてほしいんやけど……」
そう言いながら私の目の前に立ち、髪を撫でてくる。
その優しく控えめな指に心地よさを感じた。
『氷織くん……』
目を閉じて彼の名前を呼ぶ。
と。
「……Aちゃん。Aちゃんはーー、最近何かあった？嫌なこととか」
『……っ！』
ビク、と体が勝手に反応する。
まさか、氷織くんまでもがそんなことを聞くなんて……。
私は動揺を隠すように慌てて笑みを浮かべる。
『特に、ないかな。毎日氷織くんたちと話せて楽しいし』
話ってそれ？なら……、と帰るときの言葉を発しようとした瞬間。
「……堪忍な、Aちゃん」
氷織くんのそんな声が聞こえたと同時に。
『……っ！？ひ、ゃっ』
腕を掴まれたかと思うと、後ろの壁に押し付けられた。
両腕が動かせない状態に私の頭は真っ白になる。
氷織くんはというとニコリ、と効果音が付きそうな笑みを浮かべている。
「な、Aちゃん。正直に答えてくれへん？僕、Aちゃんの話が聞きたいんや」
彼と対照的に私は戸惑いに満ち溢れているだろう。
もしかして私、氷織くんを怒らせた……？
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作者名：メビウス | 作成日時：2023年9月29日 23時
