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【Noside】
少し薄暗い部屋から無機質なゲーム音とタップ音が聞こえる。
「……」
真っ黒なゲーミングチェアに体を乗せて明るい画面を見つめる青年ーー、氷織羊がいた。
表情はあまり変わらないが、彼の脳内はある少女のことで一杯になっていた。
脳裏に優しげな笑みを湛えた少女が過ぎる。
と、そのとき。
そばに置いていたスマホが軽快な音を立てた。
チラリと横目で確認すれば、今まで動いていた指が止まった。
パソコンに“GAME OVER”の文字が表示されるも、今の彼にとってはどうでもよくなっている。
メールの相手は潔だ。
内容はーー。“悪い、俺も千切もマネージャーに話を聞いてみたんだけど、駄目だった……。重荷になるかもしれないけど、後は氷織だけだ。頼んだ”
全てを読み、氷織は小さく息を吐いた。
「駄目、やったんか……」どこか落ち込んだ声を漏らす。
同時に思った。
(後は僕だけ。……なら少し強引に聞き出さんとあかんかも)
その透き通った水色の瞳に、微かに影が落ちる。
氷織は静かにスマホを触り。
プルルル Aに電話を掛けた。
暫くして。『ーーはい』
聞き覚えのある落ち着いた声が届いた。
「あ、Aちゃん。こんな夜遅くに堪忍な。寝とった?」
氷織はどこか可愛らしい声で尋ねる。
『うんん、大丈夫。それで……、どうしたの?』
「えっと、な。急で悪いんやけど、近い内に一緒に出かけへん?」
『一緒に?』
スマホ越しから反芻する声が聞こえる。
『う、ん。別にいい、けど……、何だか珍しいね。何かあった?』
「や、そういう訳やあらへんよ。Aちゃんとは色々話したいこともあるし」
そう言いながら氷織は俯いて髪を揺らす。
その表情は笑っているようでどこか虚ろげだ。
Aと少し話し、電話を切る。
「……堪忍な、Aちゃん」
その言葉は誰に届くこともなく、空気と飽和した。
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作者名:メビウス | 作成日時:2023年9月29日 23時