お見合い相手がマフィアの幹部でした【文スト】 (ページ12)

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お薬十一日分ページ12

『ほんっとうにごめんなさい……』

「そんなことないぞ、立派に描けておる

のう鏡花？」

「上手」

鏡花ちゃんが描いた絵を見て、私も絵を描いてみたくなりスケッチブックを借りて描いてみた。

のだけど……

鏡花ちゃんと姐さんを描いたはずが人間に見えない。

鏡花ちゃんと姐さんは褒めてくれているけれど、下手すぎる。

鏡花ちゃんの絵と比べると、月とスッポン以上の差がある。

『ごめんね、鏡花ちゃん。スケッチブック返すね……』

私はもう鉛筆とスケッチブックを持ってはいけない。

そう心に決め、ふと時計を見ると短針が三を指すところだった。

今日は薬を注文してるお客さんが四時に来るから、帰る時間だ。

『姐さん、私そろそろお暇しますね』

「そうか、それならまたおいで」

『はい！鏡花ちゃんもばいばい！』

鏡花ちゃんと姐さんに、手を振ってお別れする。

もうすぐお見合いで不安しかなかったから、鏡花ちゃんと姐さんと話せて良かった。

軽い足取りで来た道を戻る。

「A、待って」

『ん？鏡花ちゃん？』

呼ばれた声に振り返れば、走ってきた鏡花ちゃんが力強く抱きついてくる。

抱きついて離れない鏡花ちゃんにどうしたのか問うと、躊躇っているらしく何か言おうとして開いた口が閉じた。

しばし沈黙が流れる。

「……Aは、私のこと、好き？」

沈黙を破ったその質問に、私は間髪入れずに答える。

『大好きだよ』

「三十五人殺した私でも？」

光の無い仄暗い瞳で見つめられ、一瞬思考が止まった。

答えなきゃ。でも、なんて云えば……

『……うん、好きだよ』

ほんと？と聞いてくるその子を何も云わずに抱きしめる。

あれで良かった？

偽りのない言葉のはずなのに、胸の中はスプーンでかき混ぜられているかのように、ぐちゃぐちゃで。

私の腕の中で、安心しているような穏やかな表情を浮かべている鏡花ちゃんの頭を優しく撫でる。

大丈夫。この子を安心させてあげられたのなら、あれで良いんだ。

そう自分に云い聞かせていれば、鏡花ちゃんは私の腕から抜け出し一歩下がった。

「私、あなたの大好きでいたい。だから＿＿」

“さよなら”

その言葉を最後に背を向けて走り出す鏡花ちゃんを、呼び止めようとするも、あっという間に遠ざかっていく。

『さよならって、どうして……』