【男性声優短編集】短編だからって短いわけじゃない

谷山紀章と ページ9

貴女side



昔、とあるTV番組で“人は何故悪夢を見るのか”なんていうトークテーマで芸能人と知識人が議論を白熱させている場面があり、興味と惰性半々といった心持ちでぼんやりと眺めていた。
観ているうちに悪夢は脳や身体の仕組みなどという小難しい話にまで飛躍していって最終的には悪夢は自身のストレス解消に繋がっているなどという事に着地した。

…んな訳あるかい。
TVの向こうで盛り上がる出演者達に向けてぼんやりとした頭でツッコミを入れたのを思い出す。


自分のストレス解消でどうしてこんなにストレスを感じなきゃ
あかんのじゃ。これが私の今の率直な感想である。

そう、つまり。私、AAは絶賛nightmare中
なのである。





足元も見えない、深く重々しい暗闇の中は、小さい頃の両親や昔の学校の先生、好きになれなかった人達の声が《お前なんか…》《お前の所為で…》と途切れる事なく木霊しており、薄ら寒く感じさせる冷気のような白い靄が少しずつ遠くから私を追ってきている。

小刻みにしか許されない自身の乾いた呼吸の音と、絶えず直接頭に響く周りの声。決して現実のものではないのだと、頭では分かっていながらも冷たい汗が肌に伝っていくのを感じる。夢の中で自分の頬を抓ってみてもこの嫌な夢から醒める気配は一切無く、ただひたすらに白い靄から逃げ惑っていた。少しずつ迫り来る白い靄は段々と、人の形を成し、突然肩に手の様な感覚が置かれる。その気味の悪さに“ヒュッ”と喉の奥が鳴ったが、御構い無しにその気持ちの悪い感覚はギリギリと私の肩に喰い込んでいき、それに従う様に私の身体は下へ下へと飲み込まれていく。今の今まで普通に立っていた場所が上からの圧力だけでまるで泥の様になっていくのはいかにも夢らしいなどと焦る頭の片隅で納得した。

次第に口元まで泥のようになった元・足元に飲み込まれ息が苦しくなり意識が朦朧とする。力を振り絞り足掻くと、いつの間にいたのか、仕事仲間や先輩、後輩達といった大好きな面々が立っており頭上から足元に飲み込まれ無様に喘ぎ苦しむ私を嘲るように見下ろしている。皆は私を一瞥すると何処か遠くへ離れていく。その中には、愛おしいと私に微笑みをくれた紀章さんもいて……。



っ、いやだっ…置いてかないで…ッ行かないで！！

必死に踠き、白い靄と泥を振り払おうとする。苦しみの中で何かが聞こえた。

…ぃ……ぉい、……きろ、…起きろっA！！！



ハッ…！！


ものすごい勢いで瞼が開いた。

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