【男性声優短編集】短編だからって短いわけじゃない

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Aが顔を少し歪ませると、松岡は心配そうに首を傾げる。


「口に合わなかったかな」
「あ、ううん。砂がアサリに残ってたみたいで」

Aは苦笑いを浮かべた後、味噌汁で流し込んだ。

「そっか、ごめんね。」
「ううん、こっちこそ。気にしないで。」
「ありがと」

テンポの良い会話で、松岡は眉尻を下げて一言言うと、
再び茶碗に視線を戻した。

愛されているんだとしみじみと感じた。
安心を感じる反面、先程のことが頭に焼きつく。
幸せだし別にいいじゃん、という気持ちもある。
けれども、ほんの少しだけ嫌っていて欲しいという気も
したりしなかったり。込み入った思考にAの箸が止まる。


「なにかあった？」


再び松岡が心配そうな顔で問いかける。
予期せぬ声掛けに、答えを用意してなかったAは躊躇う。


「や、えっと」


言葉を濁すAを松岡は訝しげそうに見守った。
この視線が少し苦手だった。
まるで答えを見透かされているような視線は、突き刺さり
視神経から身体へ流れ込んでくる気さえする。
こちらから答えを言わせようとしているようでなんとなく
落ち着かないのだ。
上手い言葉が見つからないまま、恐る恐る言葉にする。


「えっと、そのね、禎丞は私のこと嫌い？
どこらへんが嫌い、とかってあったりする？」


ドキドキする。両手に溢れるほどあったらどうしよう。
愛想を尽かされるほどだったら？
直せるだろうか、かなり頑固な方だと自分でも思った。
これまでの自分を振り返りながら、松岡の答えを待つ。



「嫌い？そんなとこ一個もないよ。全部好き。」

あっけらかんとした顔でそう返ってきた。


「…えっ」


とっさに出てしまった戸惑いの声に、松岡の顔さえも曇る。


「なんでそんなこと聞くの？」


Aは取り繕うように、それとない理由を付け足した。


「えっ、や、その、ほら。私は禎丞が飲み過ぎてつぶれ
ちゃった時とか怒るけど、禎丞は怒らないからさ」


とっさに出た口実が無理やり過ぎるあまり、口に出した
A本人も苦しくなっていくが、松岡は合点した様子を
見せた後、自慢げに答えた。


「なるほどー。それでも嫌いなとこなんてないや」


あっさりとした口ぶりにAは目を見開く。
そして脳裏を再び杉田の言葉がよぎった。

少し怖い気さえした。
無い、となると私たちの関係も不安定なものになって
しまうのではないだろうか。

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