第参章 貉は二度騙す-了- ページ27
「どうしたんだよ、髪…」
『いや、あの、………これなら狐の力があっても周りが惑わされなくなるかなって…思って、』
そう言って笑いながら慣れない短髪に手を当てるAだったが、女性が髪を切ることに関してそう簡単に決断できるわけがないってことぐらい、俺にだってわかった。
…俺がやらせたのか? 俺の態度が? 申し訳なくて下唇を噛む。
『それに、元々切るつもりでいたんです、バイトでも邪魔だってずっと言われてたので』
だから丁度よかったです。Aはなんてことないようにそう言ってみせた。俺は何も返せない。
『あの、…キヨさんのモノノ怪、獏だったんですね』
俺が何も言わないことに気を使ってか、Aが機嫌を窺うように俺の顔を見る。
『私の悪夢、ずっと食べててくれたんですよね? 私知らなくて…、ありがとうございます』
律儀に深く頭を下げられて、慌てて首を振った。
「別にそれは…いいよ、」
『昨日も、私の不注意でお見苦しいものをお見せしました』
「そんなこと……、」
こういう時どう言葉を紡げばいいかわからず言葉が途切れる。
ごくりと息を飲んで、ずっとわだかまっていた感情を零すために息を吐いた。
「――――――…ごめんな、あんなこと言って」
一度言葉に出してしまえばあとはもう簡単だった。
『いや、私も…』
「違う、今回は俺が全部悪いわ。本当にごめん」
素直に謝れば、もやもやしていた気持ちがすっと晴れるような感覚がした。Aも安心したようにほっと息を吐く。
「…なあ、それにしてもお前、いつ髪切ったわけ」
ふと、疑問に思ってそう聞いた。さっきまで長かったのに次会った時には短くなってるなんて、流石にどこかおかしい。
『今切ってきて帰ったばかりです』
「…俺の部屋に来る前?」
『え…? 何の話です?』
まるで要領が掴めないといった感じでAが眉を顰める。
ああもう、今ので全部わかった。
こんなことができるのは一人しかいない。
「易々と騙されるな、なんて、俺も人のこと言えねーな」
『何がですか?』
「こっちの話」
余計なことするなと啖呵を切ってしまったけれど、結局歪んだ道を元に戻すのはヒーローにしか出来ないことなのかもしれない。
俺は素直にありがとうと言えないもどかしさにため息をついた。
*第参章 貉は二度騙す*
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赤の黒犬 - 昔の実況を見ていたら、キヨさんが夢を中々見ないと仰っていて、そこから来たのかなーとか考えられて凄く面白かったです。 (2021年7月1日 0時) (レス) id: ba80b57016 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 平和組の皆さんが可愛すぎて泣ける!!この物語を見ていると引き込まれていくので時間が短く感じます!頑張ってください!! (2015年11月2日 0時) (レス) id: 4732783237 (このIDを非表示/違反報告)
咲嶋.ぼ(プロフ) - お話の構成がとてもしっかりしており、凄く引き込まれる作品で 大好きです。更新待っております。 (2015年9月9日 1時) (レス) id: 573b4c2ac8 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - とても面白いです!たまにはいる挿し絵?も可愛いですね! これはもう更新しないのですか? まってます (2015年8月22日 23時) (レス) id: 016ebdc3e0 (このIDを非表示/違反報告)
Χ(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。文章や言葉のチョイスに心を鷲掴みにされました。また随所で入るイラストも私にはドストライクで、この小説と出会えてよかったです。 (2015年8月16日 14時) (レス) id: ffefa26ae0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:宮前 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=miyamaenovels
作成日時:2015年2月9日 17時