第弐章 物の怪に罹る-01- ページ14
*第弐章 物の怪に罹る*
「俺はまだお前を認めた訳じゃないからな」
つわはすさんに作ってもらった数珠を手渡しながら、キヨさんは私を睨んだ。
くすんだ青色のような水色のようなカラーリングのその石は私の手にわたった瞬間鈍く濁る。
「水晶の中に特殊な薬が入ってる。出来るだけ身に付けとけ」
『はい』
「あと、…あの部屋も片付けといたから」
『…はい』
別に私たち以外誰がいるわけでもないのに、キヨさんは声を潜めた。
P-Pさんは大学院で、他の二人はもう働きに出ている。今日は授業がないキヨさんと午後からの私は、二人では広すぎるリビングで遅めの朝御飯の準備をしていた。
「通帳とか印鑑パスポートとか必要最低限のものは持ってきたけど、洋服とか本は全滅だったわ」
『すみません、色々していただいて』
「お前、どうすんの?これから」
その言葉は、キヨさんがこれ以上私にここにいてほしくないというのと同義だった。
『実家…は駄目なので、引っ越します』
「お前がそんなに独り暮らしにこだわる理由はなんなのさ」
『…折り合いが悪いんです』
「良い歳してそんなこと言ってんのかよ」
呆れたようにため息を吐かれて、笑うことしかできない。
別にキヨさんが私の家の事情を知っている必要はない。むしろ事情を教えてしまえば、キヨさんはここにとどまるなとは言えなくなってしまうかもしれない。
「金とかあるわけ」
『あー、前期分の授業料を払ったばっかなので…』
「は?自分で払ってんの?」
『あ、いや、えー…』
「喧嘩してっからってこと?」
『…はい』
「この状況でよくそんなこと言えるよな」
顔を見なくてもわかる、軽蔑したような声。私は暖めていた味噌汁の火を止めた。
「狐に憑かれたのはお前のせいじゃねえかも知れねえけどさ、親と折り合い悪いのは少なくともお前のせいじゃないとは言えないだろ」
『…はい、』
「飯食ったら出てけ、わかったな」
『重ね重ねお世話になりました、』
深くお礼をしてから、キヨさんに向き直る。
『味噌汁、出来ました』
「おう、魚も焼けたわ」
戸棚からお椀をとって味噌汁を入れていく。
彼らとの折り合いが悪いのは私のせいであるなら、私は何をすれば良いのだろうか。
きっと彼らは私に母の血が入っているだけで憎いのだ。それなら私は生まれ変わる以外に努力のしようがない。
第弐章 物の怪に罹る-02-→←第壱章 君は愛しいモノノ怪-小噺-
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赤の黒犬 - 昔の実況を見ていたら、キヨさんが夢を中々見ないと仰っていて、そこから来たのかなーとか考えられて凄く面白かったです。 (2021年7月1日 0時) (レス) id: ba80b57016 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 平和組の皆さんが可愛すぎて泣ける!!この物語を見ていると引き込まれていくので時間が短く感じます!頑張ってください!! (2015年11月2日 0時) (レス) id: 4732783237 (このIDを非表示/違反報告)
咲嶋.ぼ(プロフ) - お話の構成がとてもしっかりしており、凄く引き込まれる作品で 大好きです。更新待っております。 (2015年9月9日 1時) (レス) id: 573b4c2ac8 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - とても面白いです!たまにはいる挿し絵?も可愛いですね! これはもう更新しないのですか? まってます (2015年8月22日 23時) (レス) id: 016ebdc3e0 (このIDを非表示/違反報告)
Χ(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。文章や言葉のチョイスに心を鷲掴みにされました。また随所で入るイラストも私にはドストライクで、この小説と出会えてよかったです。 (2015年8月16日 14時) (レス) id: ffefa26ae0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:宮前 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=miyamaenovels
作成日時:2015年2月9日 17時