愛執の呪い (ページ7)

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練習する姿すら、輝いて見えた。
皆の目を惹く打撃に、近本も魅入ってしまいながら、同時に黒い感情を抱いてしまう。
目元にキャップの陽射し避けの影を落とす近本の表情は、何を感じているのか分からず、上手く声が掛けられない。

打撃練習を終え、打席から戻って来た八重田はじっと見つめていた近本に気付くなり小走りで駆け寄った。
苦手だと察しがついているのにも関わらず、怖いものがないのか普段と変わらず声を掛ける。

「チカちゃん、どうやった？結構飛ばしたで。」

「うん。すごいやん。」

「んふふ、嬉しい。チカちゃんに褒められんの嬉しいな。」

幸せそうにはにかんだ八重田の姿に、罪悪感や負の感情が変に渦巻いて居心地の悪さを覚えた。
カメラは相変わらず八重田を追っており、一方的にも見える2人の空間を映していた。
コーチに呼ばれる八重田の背中を思い切り押して、見送る。離れてくれて安心した、なんて表情の近本に中野が声を掛ける。

「俺もやだなぁ、ポジション被りしてるから怖い。」

「…あいつどこでもするしね。」

「ねー。でも、味方だと心強くないっすか？」

サングラスを掛けた近本は、ふっと中野を一瞥して視線をまた逸らす。
俯いたかと思えば、キャップを先程よりも深く被り直し、小さなため息をついた。

「練習行こっか。」

と、中野の背中を押す近本は、彼の質問にも答えず一塁ベースへ向かう。あからさまに八重田の質問を拒絶する近本に、中野は呆れたように小さく笑った。

「密着ありがとうございました。」

「もぉ、カメラ向けられるん慣れてへんから恥ずかしかったっす。」

「またお願いするかもしれないです。」

「密着は1回で十分やろ。」

瑠璃色に包まれる球場を背に、帰宅寸前の八重田へ広報は礼を述べていた。
「何も面白いものは無かったと思うけど。」と眉を下げて困った様に笑う八重田を見ていれば、愛嬌の必要性を感じさせてくれる。
気の抜けない1日に肩が痛く、疲れたと項垂れながら長い廊下を歩いて行く。

下を向いたままの八重田の表情は先程までの愛らしい笑顔なんか無く、何か思い悩んでいるような無表情を浮かべていた。

「今帰り？」

熱帯夜か。駐車場に出ても、夜だと言うのに嫌な熱気が身に纏う。
静かな夏の虫の鳴き声に混じって、優しい声が聞こえて顔を上げた。先に帰ったと思っていた木浪が、扉横の壁に寄りかかって柔らかく笑顔を見せている。

「聖也さん。」

優しい彼を見るなり、猫のように寄っていった。