愛執の呪い (ページ1)

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出会いはいつだっただろう。

1つ学年が下の、仔犬のような愛らしい子供だった。
小学1年生の内野手、小さい身長で幅広い守備範囲を駆け回る。その姿に、とても魅入ってしまった。

「チカちゃん！」

眩しい笑顔で、彼は名を呼んだ。

「なんでそんな元気なんよ。」

昨日、" 吐きそうだ " と弱音を吐きながらダッシュをさせられていたはずなのに。
紺碧の空が広がる球場のダグアウトは濃い影を生み出して、近本のシルエットを浮かび上がらせる。

「昨日早く寝てん。したら、寝覚めがめっちゃ良くてさ。」

「そぉなんや。良かったやん。」

目を糸のように細め、目尻にシワを寄せて笑う近本に、彼は得意げな笑顔を見せると、「八重田(やえだ)！」と呼ばれて直ぐに去っていった。
先輩でも後輩でも、呼ばれればすぐに駆けていく姿はまるで人懐こい犬のようだ。

八重田の1つ先輩で、近本と同期の木浪の隣で真剣な表情で話を聞いていたかと思えば、膝から崩れ落ちるように2人で大笑いしている。
そんな姿を、ダグアウトでタオルを手にしたまま見つめていた。

「マジでA声でっか。」

ダグアウト後方にある扉から顔を覗かせた熊谷が呆れたように言う。
彼の端正な顔は、まるで子供を見守るかのような優しい表情をしていた。

「Aの笑い声、あれって昔からなんすか？」

彼は突然何も発さないままの近本に問い掛けて隣に並ぶ。
視界に現れた熊谷に驚きながらも、幼少期の頃を思い返しては曖昧に首を縦に振った。

「昔から。あんな感じで明るかったし、笑い声も煩かった。」

「まじすか。変わってないんだ。」

「皆の中心って感じやったね。」

笑い疲れたのか、木浪の足元で大の字に寝転がった八重田は、照り付ける陽射しを天に伸ばした右手の平で遮る。
顔に落ちる影は、八重田の白い顔を良く映えさせた。

自由奔放で愛される仕草を知っている彼は、昔から変わらない。
小さい頃から、八重田が高校最後のドラフトで指名されるまで一緒だった近本だから、迷いなくそんなことが言える。

「チカさんって、Aの事好きっすか？」

胸元で腕を組んでいた熊谷が近本の横顔をじっと見つめては、首を傾げて問い掛ける。ブラウンの髪が緩やかな送風機の風に揺られた。

「なんでよ。」

「苦手な奴を相手する時の顔してるから。」

ズバリ核心を突かれてしまった近本は、表情を崩さず見つめてくる熊谷から、ふっと視線を逸らしてダグアウトから足を踏み出した。