操り人形 (ページ9)

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6年連続2桁勝利、沢村賞を狙いながら毎日を過ごしていた。

「ねえ暇、暇なんだけど。ひーまー。」

練習中、月野木の肩に腕を回して体重を預けてくる周東は何か無いのかと言わんばかりに訴えて来る。
鎖骨付近に垂れる彼の指先を握りながら、肩の上に乗せられた彼の顔をじっと見つめる。

「僕に言われても。」

「まーじで暇。」

「…なあんか今日、佑京さんかっこいいっすね。いつもより。」

「いつもかっこいいって言ってよ。」

肩に乗せられた彼の顔をまじまじと見つめて言うと、彼の栗色の髪を撫でる。
いつの間にか周東の腕は月野木の細く締まった腰に回されており、強く強く引き寄せられていた。月野木の汗をかいた形跡の無い首に頬を寄せ、擦り寄りながら練習風景を見つめている。

「A、こっち向いて。」

無言の空気が流れる中、周東は月野木の横顔をじっと見つめて声を掛けた。
その声に首を傾げながら彼の方向に振り返る。

「キスしたら怒る？」

「ブチ切れですよ。」

「こーわ、そんな後輩だとは。」

けたけたと楽しげに笑って月野木から顎を離す。そんな彼の笑みにつられて月野木も口角を上げ、歯を見せて笑うと、その和やかな空気に紛れて頬にそっとキスをする。
ただの触れるだけのものだったが、驚いた様に大きな瞳を更に大きくさせ、周東を見上げる。

「んふふ、じょーだん。」

「こんのっ！」

「痛ッ！マジで蹴るやん！」

悪戯っ子のように笑う周東が癪に触ったのだろうか、長い足で彼の尻を蹴り上げてその場を離れていく。
痛がる彼を振り返って見てはくつくつと堪えるように笑って、心底楽しそうにしている月野木はまた畜生だとかネタにされるのだろう。

去年よりも月野木に対する批判が大きくなったような気がする。
メジャー挑戦を断った事に関しても、" 調子に乗るな " と批判が相次いだ。
公には月野木本人が断ったとしてネットニュースにもなり、批判的だった人達の逆鱗に触れたのだろう。

「あ。」

「お！朗希くん。」

「相変わらず…ですね。」

「まじまじと見んなよ身長を。」

頭のてっぺんから、つま先までを見つめた彼は先輩の月野木にも容赦無く身長いじりをし始める。
可愛い後輩だから毎回許してしまうのだけれど。

彼は月野木の頭に顎を乗せると、肩に腕を回して熱気が纏うドームを見つめる。打撃練習の快音が心地好く感じる中、月野木は胸元に垂れる彼の手を握っていた。
人付き合いも上手い月野木は選手間では人気者でいられた。