操り人形 (ページ8)

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昨シーズン、月野木はメジャーを断ったと言うのに沢山のスカウトが試合を観に来ていた。
開幕戦でもいたのだが、その時は少し不甲斐ない結果を見せてしまい本人は頭を抱えていた。
けれど、そんな人間味のある部分もスカウトからしたら面白くもあり、評価する部分となっていた。

マウンド上の刺すような視線とは裏腹に、ダグアウトでは人一倍笑って人一倍盛り上がる。そんなギャップが皆の目を惹く。

「お前またおんの？」

ブルペンで天を仰ぎ、目を瞑っていた月野木は声のする方向へ顔を向けた。

「偵察って訳でもないしな。お前ほんま都合ええ男やな。」

「やぁだ、都合いいだなんて。」

「褒めてへん。」

両頬に手を添えて、少しおちゃらけたように甲斐野を見上げる月野木の頭をコツンと小突いた。1日の休みを挟んで、次登板するまでベンチ入りをしている。
甲斐野にも月野木にも、どんな意図で置かれているのかは理解が出来ない様子だった。

「酷使されすぎ。」

「機会があれば投げますけどね。中2日でも。」

「肩すぐ死ぬわ。」

月野木の事をまるで考えていない起用の仕方に、本人ではなく周囲が疑問を呈する。試合の状況を2人で眺めながら、和田が抑えた事を見届けて月野木は小さな拍手を送る。

ハムスターの様にツンとした小さな鼻や口、大きな瞳は四方八方から見ても愛らしい。そんな人間が球界でも上位に入るほど輝く投手だという事に、隣に座っていた甲斐野は口角が上がる。
きっと自身の子供を自慢するかの様な心境なのだろう。
うちの投手は凄いんだ、そんな想いを抱きながら月野木の小さな頭を強く無造作に撫でる。

「来季、メジャー行けるとええな。」

マウンドから甲斐野へ視線を向けた月野木に言う。
一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、子供のように屈託のない笑みを見せて

「絶対行くんで！」

と右手で拳を作りガッツポーズを作る。
そんな様子の月野木を見れば見る程不憫に思い、球団に対する愛を感じられた。

この日、和田のヒーローインタビューを最後まで見つめていた月野木は彼に対する尊敬を抱いた。

「和田さんすごい。格好良い。」

「えー、嬉しい。」

「顔もバリ男前。」

野球センスを褒めていたかと思えば、唐突に容姿も褒められ照れ臭そうに笑う。後輩に褒められて嬉しくない人間はいない。

「Aの顔はなんとも言えないよね。」

「絶対褒めてないそれ。」

小さな口を尖らせて不満を露わにする月野木に、和田は目を細めて楽しげに笑った。