操り人形 (ページ7)

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「Aが先発の時、めっちゃ安心出来るっちゃん。」

ほんの少しひりついたダグアウトの奥で、甲斐は月野木の背中に手を当てて言う。
接戦が続く試合、勝ち越しては勝ち越され、また追いついて。大差では無いものの打たれてはいる。
こんな日はよく調子が悪いのかなんて言われてしまう。

「やけんさ、好きに投げたらいいんよ。俺のサインが嫌なら首振って、自分の思った通りの投げてもいいと。」

「…ありがとうございます。次、絶対抑えます。」

これで負けがついてしまえばメジャーへの道は1歩後退してしまう。
そんなプレッシャーの中、月野木は頷いてグラブ片手にダグアウトから出た。甲斐もそれに続き、ダグアウト前でキャッチボールを始める。

試合は僅差で負けてしまい、月野木は少しだけ悔しそうな表情を浮かべた。
今回ばかりは打たれてしまった自分自身のせいだ、と笑うことも出来ずに野手陣に頭を下げる姿も見られた。

「今日はお前、頑張ったんやし。今まで凄かっただけやし、こういう日もあるって。」

「そーいちにも勝てる気しかしないって言って格好つけたんですよ？！」

「格好つけたせいやな。」

裏へと戻り、ロッカールームで着替え終わった後にサロンで食事でも摂ろうと柳田と並んで料理を選んでいた。
悔しい気持ちもあったが、それ以上に格好つけて負けるという恥ずかしさでいっぱいの感情を何処にやればいいのか、と悶々としていた。

「まぁまぁ。千賀も、和田さんもそういう事あったし、多分。そういう道進んでお前も成長するんやろ。」

「…少し、元気出ました。」

「ん。今度、一緒飯行こや。おもろい話しちゃる。」

「行きます、行きたい。」

そんな2人の会話は静かなサロンに響いて消える。
負けて傷心だったものの、チームメイトに支えられてすぐに感情を立て直し前を向く。
笑顔の月野木を見るだけでも、仲間は嬉しく思えてしまう。

「何見てんの。」

ロッカールームで、山本は山崎に問いかけた。
彼の大きな手の中にある携帯画面に目をやって眉間にシワを寄せる。

「なぁんか最近、Aの悪口増えててさあ。」

山崎と月野木が一緒に写っている写真を投稿すると、コメント欄には月野木を下げながら山崎を上げる発言が多く見られた。
そんな褒められ方をしたって誰も嬉しくない。

「まあ、A本人はSNS全般ほぼ見てないし気付いてへんよ。」

「ならいいけど、俺が嫌だわ。」

友人を貶める発言を目にした山崎は少し怖い顔をしていた。