操り人形 (ページ6)

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5年間、体調不良はあったものの怪我も無く試合に出場していた。
ベテランに比べたら貢献度は無いにしろ、確実に月野木が先発登板の時は試合を作っていた。

プロ6年目の2022年、開幕投手の月野木は緊張など知らず練習中の相手選手の方へと歩みを進めた。
オフシーズン明けの試合、月野木の顔には笑みが浮かぶ。

「どおーん。」

そんな声と同時に、しゃがみこんでいた山崎の背中に体重を預けて腕を回す。

「Aか、びっくりした〜。」

「オフシーズン会わなかったし、早く話したくて。由伸達は？山岡さんとか。いつも一緒なのに。」

「ブルペン行ってる、俺はぼーっとしてる。」

「ふふ、じゃあ話し相手になってもらおうかな。」

ずるずると山崎の背中から降りて隣に座る。
彼とは身長差があるせいか、立っても座っても大きな段差が出来て、話す際は見上げなくてはいけない。
傍から見れば親子だ。

「ほらまたなんか言ってるよ。」

何の話をしようか、そう考えているとスタンド席からはいつか聞いたヤジが飛んでくる。
ヘラヘラすんな、と男の声が聞こえたかと思えば月野木に対する直接的な暴言も目立った。

「お前どんな恨み買ったん。」

「さあ。お金でも落としてイライラしてるんじゃないかな。
今季まだキャンプ以外で野球してないもん。何に対する文句なんだろうね。」

ゴロンと彼の隣に寝転んだ月野木を見ては、山崎は「たまに見せる冷たい感じ、めっちゃ怖い。」なんて月野木の鼻先を人差し指で触れる。
ツンと尖った通った鼻を何度か押した後、小鼻を親指と人差し指で挟み、鼻呼吸を止める。

「オリックスって、なんか。チームの雰囲気がいつもいいよね。」

鼻声のまま、天井の照明を見つめて言う。
月野木のその言葉に手を離してどういう事かを問うた。

「そのままの意味だよ。雰囲気がいい。」

「まあ、楽しいチームだけど。そういやなんでメジャー断ったの。」

「…大人の事情。僕自身は、向こうに行きたかったけどね。」

コロコロと話題が変わる。
地面に手を付き、体を支えながら横になったままの月野木を見つめた。
長いまつ毛が揺れて、ガラス玉のような瞳が時折動く。思い出させんなと言わんばかりに寂しい口調に、地雷に触れた事を理解してまたも話題を変えた。

「今日の意気込みをどうぞ。」

マイク代わりに右手で拳を作り、月野木の口元に持っていく。

「勝てる気しかしないですね。」

なんて笑いながら、山本との投げ合いを楽しみにしているようだ。