操り人形 (ページ5)

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「僕はホークスが好きです。」

ロッカールームに戻る道中、月野木は上林に言う。
突然どうしたんだと思いながらも彼は「うん。」と優しく相槌を打って話を静かに聞いた。

「ドラフトで拾ってくれた事も、育ててくれた事も感謝してます。」

真っ直ぐ前を見つめ、歩みを進める。腹付近で両手を忙しなく動かしているのは気が落ち着いていないからだろうか。

「…そんな大好きなホークスからメジャーに行って、ホークスはこんな育成が出来るんだぞって。メジャーで通用する選手が沢山いるんだぞって。僕は、そんな選手になりたくて。」

「うん。」

「でも球団とはちょっと、感覚がすれ違ったままです。来季に期待ですね。」

俯いたかと思えばしきりに動かしていた手をじっと見つめ、パッと両手を離す。
ロッカールームに着くと、扉を開けて綺麗な空間へと足を踏み入れた。自身のロッカー前の椅子に腰をかけ、「あーあ！」と脱力した様な声を上げてそのまま突っ伏してしまった。

それから少し動くことも無く、腕を枕にして静かに呼吸を繰り返す。
驚く程動かない為、上林は心配になって背中に手を置いてそっとさする。

「…悔しい。千賀の次に凄い、由伸と並んで凄い。シーズン中はそうやって囃し立てるくせに、負けてそのままオフになると実力がどうとかこうとか。」

シーズン中、弱音を吐いていた姿を見なかった月野木だが、流石にキャパオーバーだったのだろう。
上林が傍にいると思うと、抱え込んでいた事を吐き出すように口を動かす。

「…そりゃ、千賀さんは凄いし由伸も凄いし。沢村賞もあいつで、…。その人ありきの僕だ。僕単体では褒められない。僕を褒めるのに、なんで他人が出てくるのか分からない。」

空調の音だけが響くロッカールームに、寂しく消えていく月野木の訴え。上林は何も言えないまま、ずっとずっと背中をさすっていた。この5年間、なんにでも首を縦に振り従順に従ってきていた。それが今仇となり、自分自身の首を絞めている。

「はあ〜あ。ごめんなさい変なとこ見せて。…来季は僕が沢村賞獲るし、絶対リーグ優勝して、日本一にもなる。ノーノーも、完全試合もしてやる。」

「詰め込んだね。」

「ふふ、本当は今季もこの意気込みでやってたんですけど、…結局何も成し遂げられず。だから、来年！球界一の投手って言われるよう頑張ります。」

弱音を吐き出せてスッキリしたのだろう。
明るい笑顔を上林に向けると、彼もまた安心したようにクールに口角を上げた。