操り人形 (ページ33)

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好きな人が不憫な程、可愛く、愛らしく、守りたい存在に思えて仕方が無くなる。
いつの間にか桃色の空気が過ぎ去り、心温まる陽気に包まれていた季節は次第に熱を持つ。

桜並木は真緑の葉桜となり、桃色の絨毯を作って季節の変わり目を伝えてくれた。
それと同時にシーズンが開幕、投手ローテーションの中には月野木の名前が無く、投球障害は治らなかった事が知らされる。

ガヤガヤと騒がしいロッカールーム、練習を終えた選手が荷物を置いて選手サロンへと移動する。
開幕一軍登録された月野木は、オフシーズンの間に誰よりも野手としての能力を上げていた。

皆よりも打席に立つ機会も無く、守備範囲も狭い投手は空いた穴を埋める事に必死だった。

自身の荷物で埋められたロッカー、置かれたカバンから携帯を取り出して画面を確認する。
通知バナーに着信を知らせるアイコンが表記されており、誰からかとタップした。

" 大谷翔平 " と連ねられた名前に一瞬驚きはしたものの、操作してすぐに折り返しの電話を掛ける。

3コールすると電話が繋がり、向こうから「ビックリしたんだけど。」なんて上擦った声が聞こえてきた。

「なにが。」

ふっと息を吐くように笑いながらそう問いかける。

「野手転向！なんで野手に。あんなに投手成績良かったのに。」

「ちょっと、投げる事が難しくて。コーチから野手にって言われたから、分かったって。」

「……ああ、なるほど？…じゃあ、新しいAのメジャー挑戦を願っていようかな。」

電話の向こうの彼はすぐに察しがついたのだろう。
彼はそう言って優しく笑うと、「無理はしないようにね。」と心配から来る言葉を掛ける。月野木がイエスマンな事を知っているのだろう。

「野手しながら、ちゃんと投げられるように頑張るんで…そっちに行った時、もしかしたら翔平みたいに二刀流になってるかもしれない。」

「あは、それいいね。すごい楽しいじゃん、楽しみに待ってる。」

「ふふ、なんかテンション高いね。」

「…そりゃあ、好きな子と電話できて嬉しいから。」

まるで恋をしているかのような声色で彼は言う。
けれど、月野木は真に受けず笑って躱して話題を変えてしまう。
鈍感なのか、それともわざとなのか。
それすら疑ってしまう程に月野木はスルースキルが高い。

「…頑張って。」

「うん。頑張る。」

その言葉で電話が終わる。先輩でも、大谷との電話は気楽で楽しそうだった。
携帯をカバンに放った月野木の肩に柳田が腕を回した。