操り人形 (ページ32)

今日:10 hit、昨日:28 hit、合計:63,942 hit

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翌日から月野木は筑後でのリハビリに励む事になった。
いくらフォームを変えようと、左手に変えてみようと躍起になってみたりもするが案の定球威は落ちて上手く投げる事が出来ずにいた。

寒くなる季節、皆が秋季キャンプに励む中、月野木は相も変わらず投球フォーム確認をしていた。
腕の位置を下げてみても、足の上げ方を変えてみても、腕が後ろで掴まれたように動かなくなってしまう。

「投手投げが出来ないの？」

近くで水分補給をしていた栗原が月野木に問いかけた。
彼の事を見下ろし、自身の腕に視線をやりながら頷いて「そうなんですよ。」と悔しそうに眉を顰める。

「じゃあ俺とキャッチボールしよーよ、普通に、野手投げで。」

「…そういや野手投げした事ないや。」

「それなら尚更！やろうやろう！」

小さな月野木の言葉も彼は聞き取り、嬉々として立ち上がりグラブを手にする。
元気で明るい彼は、月野木の暗い気持ちを払拭してくれて、彼の近くは陽だまりのようだった。

室内練習場に響く大きな破裂音。
栗原はグラブの中に収まる球を見て、月野木へ視線をやった。

「投げれるやん！」

彼の元気な声に、月野木は喜びを押し殺すような笑みを浮かべる。

「速いし！やっぱ肩強いんだろうな〜。Aは、野手やるならどこがいい？」

彼は月野木へ返球しながら声を張り上げて問い掛ける。
山なりに投げられた球をグラブで捕球し、球を握って少し考える。

「もしやるならやっぱり外野手がいいなあ。」

引っ掛かりもなく、以前の様に波のような灘らかな動きで栗原とキャッチボールをする。
そんな月野木はやはり楽しそうで、栗原にも褒められ笑顔が絶えず溢れていた。
トレーナーは月野木をじっと見つめ、記録を取った後に投手コーチの元へと向かった。

「野手転向…。」

空がオレンジ色に染まり、カラスが呑気に鳴いている。
皆が片付けをしていく中、月野木は呼び止められて会話をしていた。投手コーチとトレーナーから本格的に野手転向の打診がされたのだ。

「Aは野手でもいけると思うんだけど、どう？」

首を傾げ、問いかけてくる。
まるで、お前の投手としての役目はもう終わりだと言うかのような、そんな感情が声に乗っていた。

「……。そうですね。野手に転向します。」

少し考えはしたが、月野木は二つ返事で了承してしまった。
イエスマンも、投球障害も治らないまままた同じ日常が流れていく。

球団に好き勝手使われる日常が。