操り人形 (ページ31)

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「…お前、傷心の僕に最低だよ。」

翌日の事、寒い中朝イチで山崎と山本が月野木の自宅を訪ねた。
室内の暖かい空気が外に漏れないよう、外の冷たい空気が入り込まないよう、2人を急かして中に入れココアを出してもてなす。

いつの間にか3人の体制は崩れ、ソファに座る山崎の太腿に頭を置き、山本の足の上に月野木の筋肉の着いた細い足が乗せられた。
顔が握り潰されるんじゃ無いかと言わんばかりの山崎の大きな手で撫でられて、心地好さそうに目を細めながら月野木は呟いた。

「誰に対しての？」

視線をテレビから腿の上の月野木の顔へ向け、優しい声色で問い掛ける。

「由伸。」

「あ、俺ぇ？」

「メジャー行っちゃうのか。寂しいなあ、寂しい。寂しいし、今すごく嫉妬してる。羨ましい、承認されるお前が羨ましい。」

眠たげに目を瞑りながら山本に対する嫉妬や寂しい旨を口にする。

「…行くからには、頑張ってほしい。成績残してほしい。」

山本の為に動く薄く小さな口をじっと見つめる山崎は、骨張った指の先で唇に触れ、口角からそっと撫でる。
うっすらと瞳を開けた月野木だが、目の前の彼の表情を確認しようにも彼の重たい前髪が邪魔をして上手く認識出来ずにいた。ただ、距離が近いな。なんて思っただけで。

「頑張るよそりゃあ。Aも、投球障害治るといいね。」

「…そうだね、治ったらいいなあ。」

山崎に頬を摘まれたり、下唇を折り畳まれたりと遊ばれながらも目を瞑ったまま山本に言う。
彼はそれが楽しく無かったのだろう。口元から手を離したかと思えば、月野木の前髪を掻きあげて額を露わにする。
肌荒れを知らない額をじっと見つめた後、3本の指でパチンっと叩いてみた。

「ん？」

「俺の事も見てよ。」

片目を開いた月野木は、目の前の山崎の言葉に少し戸惑う。
考えた後、彼の事を刮目してみた。
眠そうな瞳を擦り、真っ直ぐ見つめてくるその姿に思わず吹き出して笑い、大きな手で月野木の目を覆った。

「そんな目力強くさせなくていいから。」

「見てって言ったじゃん。」

「なに楽しそうな話してんの。」

けたけたと笑いながら会話する2人を見つめる山本は少しだけ疎外感を感じているようだった。
そんな楽しい時間はあっという間に流れていく。暖かい室内、壁に掛けられた時計はもう17時を回っていた。
翌日には帰ってしまう彼らの為になにか豪勢にもてなそうとも思ったが、携帯を取り出すと

「何食べたい？」

なんて出前サイトを開いて問いかけた。