操り人形 (ページ4)

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2021年、優勝を逃して悔しい思いのままシーズンを終えた。
それと同時に持ち上がるのが月野木のメジャー挑戦だった。
まだ23歳だ。早いと否定的な者もいれば、挑戦してみるのもアリだと肯定的な者もいた。

スカウトと言ってもまだ2球団程度のもので、獲得に動いているという事は公にはしていなかった。

「挑戦出来るなら、僕は向こうでやってみたいです。」

監督室で月野木は椅子に腰掛けた監督を真っ直ぐ見つめて言う。
腹の前で手を組み、監督の返事を黙って待っていた。
球団からしてもそこそこのお金が貰えるから悪い話では無いだろう。

「月野木はホークスでも安定した投手で、まだ若い。」

「…あ、ありがとう…ございます…？」

「月野木は来季までここにいてほしい。来季に期待したい。優勝するには、月野木が居ないといけない。」

「………メジャー挑戦、だめって事ですか。」

彼は諭す様な瞳で月野木を見つめて言う。
少しだけ遠回りな返答に、思わず問い掛けた。すると彼は首を縦に振って

「来季の活躍次第では、考える。」

とメジャー挑戦を却下した。
少しだけ動揺した様に口を噤んだ月野木だが、まぁしょうがないと飲み込む事が出来たようだ。

「でも、でも。僕はメジャー挑戦したいって、その考えは…否定しないでほしいです。お願いします。」

「うん、分かったよ。」

そう言って監督は柔らかく笑う。
まだ言いたい事はあったが、頭を下げて監督室を後にした。
足音の響く長い廊下は蛍光灯で眩しくて、目を細めながらロッカールームへと歩みを進める。

やるせなさを抱きながら、自身のシャツの胸元を強く掴みながら重い足取りで歩く。

「どうしたの。そんな暗い顔して。」

安心する低い声が頭上から聞こえて顔を上げた。たまたまドームに用事があって来ていた上林が、普段着で月野木を見下ろしていた。

「…いやあ。今後について話してまして。」

「今後？…あ。メジャー？」

「そうですね。それなんですけど、ダメだって言われちゃって。」

眉を下げて、少し寂しげに笑う。
少しだけアホで、時折元気で、その性格の大半が真面目で出来た月野木がそんな表情をするものだから、上林も驚いた様に眉を上げた。

「なんで。Aの実力ならいけるでしょ。」

「いやあ。そう思います？もう1回、ワンモア。」

「Aの実力ならメジャーでも通じると思うよ。」

「んふふ、嬉しい〜。」

上林の質問の返答になっていない事ばかりを返して核心から逃れていた。