操り人形 (ページ29)

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月野木を元気付ける為に柳田も背中を叩いて沢山の言葉を掛けて、谷川原は渾身の変顔を披露していた。
お腹を抱えて地面に転がって笑う月野木に皆もホッと胸を撫で下ろす。

「もしさあ、治らなかったらどうすんの。」

ストレッチをしていた月野木の隣に腰掛けて、丸い背中に触れる。
不安そうに見下ろす甲斐野を一瞥すると、上体を起こして地面に手を着いた。華奢な腕に体重を預けながら、天井の照明を見つめて悩んだ様に考え始める。

「さあ。辞めるんじゃないですかね。」

「えっ、え？」

「え？」

「え、いや。何を辞めんの。」

息を吐くように発言する月野木の言葉を驚いた表情で聞き返す。
嫌な考えが過ぎってしまい、払拭しようとするが月野木本人の口から嫌な事が事実となる。

「え、へへ。野球ですけど。」

月野木本人は、甲斐野を見て何を言っているんだと言わんばかりに軽く笑い言葉にする。
まるで頭を殴られたような衝撃だった。あれだけプロ野球に固執して、そのせいで時折メンタルヘルスが悪くなり、それでも自身の機嫌や精神面を保っていた月野木がこんなにあっさりと、と。

「だあって！僕の全力は何にも敵わなくて…それでもって治らないってんなら意味無いでしょ。
野手転向はするかもしれないけどさあ、それなら僕じゃなくて若い子を使ってほしいし。」

甲斐野の前で表情をコロコロ変えながら必死に説明する様に、説得する様に話す。
見ているだけでも悲しい気持ちを抱えてしまう。

「…野球、嫌いになった？」

「まさか。どんな事があっても野球は好きです。勿論、ホークスも。
でも、好きだから治らないってんなら辞めたい、離れたい。過去の栄光っていって縋るあれも無いし、…未練はちょっと、あるかもしれないけれど。」

諦めたように眉を下げてふっと笑うその表情も寂しげだ。
月野木の瞳には何が映っているのだろう、何を今考えて何を見ているのだろう。そんな疑問ばかりが甲斐野を支配する。
そっと手を伸ばし、月野木の冷えきった柔らかい頬に触れて暖かい手の平で包み込む。

大きな瞳はじっと甲斐野を捉え、不思議そうに小首を傾げた。

「…お前野球センスはピカイチなんやから。…お前の野球が観たいって人間、何人おると思ってんの。」

「なんで甲斐野さんが泣きそうなんですか。んふふ、格好良い顔が台無しだあ。」

「皆お前の事が好きやねんぞ！！皆…俺らも、他球団の奴も！」

突然の大きな声に、瞳を丸くさせてぱちくりと瞬きをした。